日本の民衆思想を、通俗道徳の面と権力への反抗(一揆、世直し)の面に注目して分析する面白い本。二宮尊徳に代表される「勤勉、節約」を旨とする通俗道徳は、権力者が「上から」押し付けようとしただけではなく、それが実際に成果を挙げたから説得力を持った(勤勉、節約にいそしむものは豊かになり、勤勉、節約を怠る者は没落する)。その一方で、この通俗道徳は、貧困の原因を個人の勤勉や節約の不足にしてしまい、社会構造の問題点を隠蔽してしまう。
通俗道徳が説得力を持つのは、勤勉や節約にいそしむことによって豊かになれる状況下であって、社会全体の貧困化が進み、勤勉や節約にいそしんでも貧困化から逃れられない状況では、通俗道徳の説得力はなくなる。今後の日本もそうなっていくと思われるが、その時にどのような「世直し」の思想が現れてくるのだろうか。
出版社ウェブサイトから紹介を引用
幕末から明治期の新興宗教や百姓一揆の史料をさぐることにより、民衆の生き方と意識の在り方を歴史的にとらえ直す。著者一流の歴史探求から日本の近代化を追究した名著。解説=タカシ・フジタニ
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