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2023年8月18日金曜日

【おすすめ度☆】花井荘輔『増補改訂版 リスクってなんだ?』丸善出版, 2022年

化学物質の「リスク」に関して、概説的な知識がわかる教科書。 内容:リスクとは何か ハザード管理とリスク管理 リスク評価のシナリオ 直接暴露 間接暴露 取り込み・吸収・体内動態 健康影響 環境生態影響 変動性と不確実性 リスクの判定 データベースとシステム リスクを超えて合理的な意思決定に向けて

以下に述べることはこの本だけの問題点ではなく、リスク論の教科書に共通する問題点であるけど、「リスクは人やグループによって異なる」という事実が、化学物質に対する「感受性」の個人差とされている。男性と女性の間でもリスクは異なるが(例えば子宮がんや卵巣がんのリスクがあるのは女性だけで、男性には子宮がんや卵巣がんのリスクはない)、これを「化学物質に対する個人の感受性の違い」だとするのは不適切であろう。
 個人のリスクの差は男性と女性の違いのような生理的な理由によって引き起こされるだけではなく、社会的・経済的な理由によっても引き起こされる。水俣病事件では、お金のある人は汚染された水俣湾の魚を買わず、他の地域でとれた魚を飼うことができたが、魚が売れなくなって困窮した漁民たちは、他の食物を買うためのお金がなかったので汚染されていることを知りながら水俣湾の魚を食べ続けるしかなく高リスクにさらされた。
 ジェンダーや社会的・経済的条件によってリスクが異なるというのは、「文系」のたわごとではなく科学的に十分証明できることである。それなのに、ジェンダーや社会的・経済的条件に基づくリスクの差を無視してしまうのは、本当の意味で科学的な態度とは言えない。個人(あるいはグループ)によってリスクが異なるということを認めるならば、リスクの「利害得失」を評価するときに、リスクの低い人(グループ)にとっては利得がプラスになるけど、リスクの高い人(グループ)にとってはマイナスになるということがあり得る。この点の配慮が不十分であることが、リスク論に基づいた「科学的」な議論が、必ずしも社会に受け入れられない原因ではないだろうか。
 社会全体の平均値としては利益が損失を上回る場合でも、個人やグループとしてはそうではないことはあり得るのである。損失が利益を上回る人やグループに対して、「社会全体の平均値としては利益が上回っているのだから、リスクを受け入れよ」と言っても説得できないのは当たり前で、それは科学を理解していないために非合理的に反発しているのではない。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
2006年に刊行した 『リスクってなんだ? ―化学物質で考える』 の増補改訂版
 SDGsが世界的な広がりをみせる中,地球温暖化や海洋プラスチックなど,私たちの日常生活をとりまく化学物質とのあり方について誰もが真剣に考えなければならなくなりました.不確かな未来にどう生きるか,どう決断するか,また,根拠のない情報が極大化する時代に対処するためにも,科学的な思考力,つまりリスクの考え方を養うことが非常に重要です.
  本書は “リスクってなんだ?” の発想で,化学物質のリスク評価の基本(利害得失を十分に吟味し,その過程と根拠を公開して一般的な判断の材料とする)を解説.初版の内容に,社会の変化と化学物質をめぐる世界的な動向を概観し,変化の大きい社会のあり方にも触れました.化学となんらかの関係をもつ人はもちろんのこと,日常生活において化学物質との接点をもつ一般の人にも大いに参考になる一冊です.

 

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