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2025年9月29日月曜日

【おすすめ度●】ボブ・ウッドワード,スコット・アームストロング『ブレザレン アメリカ最高裁の男たち』TBSブリタニカ, 1981年

ボブ・ウッド―ワードとスコット・アームストロングは、新聞(ワシントン・ポスト)の記者。本来、裁判所でどのような議論が行われて判決が書かれたのか、その過程が外部に明らかになることはない。しかし本書は、膨大な内部資料に基づいて(もちろん本来はそのような内部情報は極秘情報のはずであり、そのような内部資料が新聞記者に渡されることが異常事態)、最高裁の判決がどのように作られたのかを詳しく明らかにする本である。
 アメリカには膨大な弁護士が存在し、さまざまな問題を裁判によって解決する傾向が強い国である。したがって、アメリカの裁判所のなかで「最高」の位置を占める最高裁判所は、アメリカの政治・経済・社会に重大な影響を及ぼす強い権力を持っている(裁判所と大統領が強大な力を持っている代わりに、アメリカでは議会の力は他国に比べて小さい)。特に、本書が扱っている1969年から1976年にかけては、人種差別撤廃、人工中絶の合法化、ヴェトナム戦争、ウォーターゲート・スキャンダル(この事件は最終的に当時のニクソン大統領を辞任に追い込んだ)、死刑廃止など重大な判決が相次いで出された時期である。意外に感じる人もいるかもしれないが、アメリカでは最高裁の判決によって、1967年から1976年まで死刑の執行が停止されていた。法律では死刑が定められているにもかかわらず、アメリカの最高裁判所には死刑を「違憲である」として停止する権力があるのである(1975年に改めて死刑を認める判決が出され、死刑が再開された)。このように裁判所が大きな権力を持つ社会のしくみのため、アメリカではあらゆる問題が裁判所に持ち込まれることになる。アメリカの最高裁判所は、人種差別撤廃やヴェトナム戦争、妊娠中絶の合法化(かつてキリスト教国では妊娠中絶が禁止されていることが多かった。トランプ政権下で、再び一部の州で妊娠中絶を制限する動きが現れている)など社会を進歩させる方向に「強引」と言ってもいいほどの強力な指導力を発揮したが、その一方で、一つ一つの作品について、「この作品はわいせつなポルノか?」ということがいちいち最高裁判所で審議されるような不合理なこともことも起きている。
 本書は、このようにアメリカ社会の中で極めて重要な役割を果たしている最高裁判所の内部情報を明らかにする本である。なお「ブレザレン(brethren)」はbrotherの古めかしい形の複数形。この言葉が示す通り、当時の最高裁判所の裁判官は全員が男性で、ある意味では兄弟のような関係であった。
 なぜ本来極秘であるはずの最高裁判所の内部情報が新聞記者に渡されたのか。本書を読むと、当時のウォーレン・E・バーガー最高裁判所所長が厳しく批判されている。アメリカの最高裁判所には9人の裁判官がいるが、この本ではバーガー長官以外の裁判官はたまに批判されることもあるが基本的に称賛されている。ところが、バーガー長官だけは酷評(罵倒といってもよい)される一方である。ここから推測されることは、最高裁判所の関係者で、バーガー長官に反感を持つ者が新聞記者に情報を提供したのではないかと思われる。



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