「公害は「過去」のものではない。」という文章からもわかるように、公害問題を「過去の不幸な出来事」とするのではなく、現在まで継続する問題として公害問題を振り返り、現代的意義を分析している。具体的に取り上げられているのは、足尾銅山事件、水俣病事件、産業廃棄物問題、カネミ油症事件、熱帯雨林破壊、マーシャル諸島核実験被害、環境正義、立地(NIMBY)問題、公害資料館と公害経験の継承、環境リスクの問題など。
この本は、公害問題に真摯に取り組み、公害問題の本質、つまり加害者と被害者の対立関係に深く踏み込む良書だが、残念ながらこの本には欠落していることがある。日本の公害問題の対処にあたって、革新自治体が果たした役割は決定的に大きいのだけど、この本には革新自治体のことが書かれていない。そのため、現代の分析でも、「地域(自治体)から変えていく」という戦略が見落とされている。
また、公害問題の対処にあたって、革新自治体と並んで被害者が裁判に訴えて勝訴したことも非常に重要であった。この本でも裁判について触れられてはいるが、あまり詳しくはない。
この本は上記のような限界はあるものの、今の時代にあえて「公害」をタイトルにし、内容的にも公害問題の本質に迫っていることはきわめて高く評価できる。
出版社ページより紹介を引用
公害は「過去」のものではない。
問題を引き起こす構造は社会に根深く横たわり、差別と無関心が被害を見えなくしている。
公害の歴史と経験に学び、被害の声に耳を澄まし、犠牲の偏在が進む現代の課題を考える。
公害を生み続ける社会をどう変えていくか——。
〈公害の歴史が教えるのは、見えていたはずのものが不可視化されていく過程である。その背後には、環境侵害の影響を背負わされるのが社会的に弱い立場の人びとに偏るという、公害の最初期から続く社会構造もある。
公害の「解決」を強調する動きが、実は公害発生の経緯を引きずるものであり、現在の環境問題にも影響を与えているのであれば、不可視化の仕組みに注意し、それに対抗する方法を考える必要がある。——編者〉
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