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2023年6月10日土曜日

【おすすめ度☆】岡山裕・前嶋和弘『アメリカ政治』有斐閣ストゥディア, 2023年

この本一冊でアメリカの政治の仕組みが一通りわかる本。この本のように、重要なことをきちんと押さえた上でコンパクトにまとめることは、実は難しい。コンパクトにまとめようとして重要なことが抜けてしまったり、細かいことまで全て網羅しようとして長大になりすぎてしまうことは多い。 内容:アメリカ人の世界観・政治観 アメリカの政党システム 選挙 利益団体と社会運動 メディアと世論 政治的インフラストラクチャー 連邦議会 大統領 司法府 官僚機構 連邦制と地方自治 内政と外交の政策形成過程 分極化時代の政治過程

この本を読んで感じたのは、アメリカでは政権交代が重要な機能を果たしていること。アメリカでは、政権交代(大統領が共和党から民主党、あるいは民主党から共和党に代わること)によって、4000人近くの政府高官が交代し、大統領が代わりの人を選任する。政権交代によって政府の職を離れた人がシンクタンクや民間企業に就職し、逆にシンクタンクや民間企業から政府高官が選ばれる。この仕組みを「回転ドア」と呼ぶ。この「回転ドア」にはもちろん弊害もあるけど、アメリカ社会を活性化させていることは間違いない。
 アメリカでは、民主党政権になれば共和党寄りの人は野党側になり、共和党政権になれば民主党寄りの人が野党側になる。つまり政権交代がある限り、「ずっと政府側の人」というのは存在しない。日本では政権交代の可能性は小さく、「政府寄り」の人はずっと政府にべったりで、「野党寄り」の人はずっと政府を批判しているばかり。そのような日本に比べれば、アメリカの政治ははるかに健全に見える。
 ただし、現在は民主党と共和党の勢力が拮抗しているが(2023年6月10日現在で上院は民主党系51議席・共和党48議席、下院は民主党212議席・共和党222議席)、これは偶然で、この本を見る限り特に両党を拮抗させるための仕組みは存在しておらず、実際に1980年代のレーガン共和党政権の登場以前は民主党がはっきり優位だった。ただし第3の党の出現を妨害する仕組みはかなり強力で、民主党・共和党に続く第3党を創ろうという試みは今まで何回もあったけど、全て(アメリカ国政政党としては、事実上)失敗している。
 不思議に思ったのは、「その中でカーネギーやロックフェラー、フォードなどの主流派財団が、人種差別解消や多文化共生的な目的を意識した研究に1950年代から60年代に助成し、リベラル派の知的基盤となっていった。」と書かれていたこと(110ページ)。なぜ主流派財団が人種差別解消や多文化共生的に助成したのだろうか? やはり当時はベトナム戦争の時代だったので、アメリカ国内での対立を防ぐ必要があった(特に、黒人に戦争に協力してもらい、兵士になってもらう必要があった)からだろうか?

出版社ウェブサイトから紹介を引用
情報量の多さの割に,勘違いされがちなアメリカ政治。本書は,個々の出来事を追うだけでなく,その背景や政治制度の仕組みを多角的に解説する。どのような主体や制度が,どのように活動・作動しているのか。アメリカ政治の「からくり」を明らかにする。



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