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2023年6月22日木曜日

【おすすめ度●】境家史郎『戦後日本政治史』中公新書, 2023年

戦後憲法体制の形成から始まり、現在の「ネオ55年体制」(著者の用語)に至る戦後政治史の概説。「55年体制」の時代が詳しく説明されて、「政治改革」の時代(1990年代~小泉政権)を経て日本政治の「再イデオロギー化」が進み、現在の日本政治を「ネオ55年体制」(自民党の一党優位の再現)と位置付けている。
 この本では、「政権交代の可能性がきわめて低い」と「首相のリーダーシップが弱い」という2つの55年体制の弱点を解消することが、1990年代の政治改革の目標だったとしています(282p)。「政治改革」の結果として、「首相のリーダーシップの強化」は成功したが「政権交代の可能性を高める」ことには失敗して自民党一党優位の「ネオ55年体制」が出現したと評価されています。
 しかし、この点では著者の述べていることに疑問があります。本当に1990年代の「政治改革」で「政権交代の可能性を高める」ことが目指されたのかは疑問と言わざるを得ません。現在の小選挙区・比例代表並立制のように大きな比例代表があったら、小さな野党でも消滅することはないので、野党のイデオロギー的な分極化がなくなることはありえません。別な言い方をすれば、現在の小選挙区・比例代表並立制の下では、比例代表で野党同士が争うのだから(当然、野党はイデオロギー的に分極化する)、小選挙区で野党が統一して自民党と戦うことは困難です。つまり、小選挙区・比例代表並立制が導入された目的は、政権交代の可能性を高めることではなく、自民党一党優位を確立し、かつ自民党内でも総裁(通常は首相)に権力を集中することだったのではないかと考えざるを得ません。
 1990年代の「政治改革」の一つのきっかけは、1991年の湾岸戦争に日本(自衛隊)が参戦しなかったため、多額の資金支援を行ったのにもかかわらずクウェートから感謝されなかったこと(いわゆる「湾岸のトラウマ」159p)です。つまり日本を「戦争する国」にすることが「政治改革」の一つの目的でした(「政治改革」の目的はそれだけではないですが)。現在では、自民党内の派閥対立がほぼ解消されたので、自民党の内部から自衛隊の海外派兵に反対する大規模な「造反」が起きる可能性はなくなりました。これこそが「政治改革」の顕著な成果ではないかと思います。その点で、ベトナム戦争に自衛隊を参戦させることなど考えられなかった「55年体制」の時代と現在は全く違う状況であり、現在を「ネオ55年体制」というのは不適切だと思います。
 この点に疑問があるので、入門書的な本ですがおすすめ度は☆ではなく●にしました。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
日本国憲法の枠組みの中にある戦後日本政治。自民党と社会党のイデオロギー対立は1960年の安保改定問題で頂点を迎える。以降、自民党は経済成長に専心し、一党支配を盤石にした。80年代末以降は「改革」が争点となるも、民主党政権を経て、第二次安倍政権以降は再び巨大与党と中小野党が防衛問題を主な争点として対峙している。本書は憲法をめぐる対立に着目して戦後政治をたどり、日本政治の現在地を見極める。


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