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紹介する本が増えてきたのでまとめます。 【おすすめ度◎】の本(特におすすめする本、このページの下の方に) 【おすすめ度☆】の本の一覧はこちら (教科書あるいは入門書的な本) 【おすすめ度○】の本の一覧はこちら (読むことをおすすめする本) 【おすすめ度●】の本の一覧はこちら (専...

2023年4月25日火曜日

【おすすめ度○】ティモシー・パチラット『暴力のエスノグラフィー』明石書店, 2022年

著者は政治学の研究者だが、アメリカの屠殺場(家畜を殺して食肉に加工する施設。この本では、事実をはっきり書く方針から「屠殺場」と明記している)で著者が実際に働いて観察した実態を詳しく書いている。この本の性質上、残酷な描写が多数出てくるので、そういうのが苦手な人は読んではいけないが、残酷な描写に耐えられる人はぜひ読んでみるとよい。
 屠殺場で働いているのは有色人種や非正規移民が多い(著者も白人とタイ人を両親に持つので、外見上は有色人種)。作業のスピードが速く危険が多い。著者が働いていた屠殺場では1日に2200頭から2500頭の牛が殺され、食肉に加工されている。賃金はアメリカの職場としては非常に安く、アメリカの最低賃金と大して変わらない。
 全体の作業は恐ろしく細かく分けられている上に、工場の全体が見渡せないように工場内部が意図的に曲がり角が多く設計されており、ほとんどの労働者は「まだ生きている牛」か、「すでに食肉に近い状態」のいずれかしか見ることはない。「ノッカー」と呼ばれる「生きている牛」を殺す役目の労働者は、屠殺場の中でも他の労働者から差別的にみられている(「ノッカーになったら、本当に心が壊れるぞ」)。
 工場の中では衛生基準の違反が多発しており、製品である食肉に牛の糞がついていることさえあるが、そのような違反はほとんど見過ごされている。衛生基準を守っていると、とても計画されたとおりに作業ができず、1日に2200~2500頭もの牛を殺すことができないためだ。工場にはアメリカ農務省(USDA)の検査官が常駐して違反を監視しているが、彼らもすべての違反を摘発していたらきりがないのでほとんどの違反はわざと見過ごしている。ただし、衛生基準の違反が多発している状況であるにもかかわらず、食品安全上の大事故は生じていないようである。
 著者は、「屠殺場が社会から(物理的・精神的に)見えないようにされていること」および「屠殺場の中でも、牛を殺す作業が(物理的・精神的に)見えないようにされていること」に注目する。現代の社会が暴力を必然としているにもかかわらず、暴力が見えなくなっていることを強調する。このことをミシェル・フーコー風に「視界の政治」と呼んでいる。
 上で述べたように、本書は理論(思想)的にはフーコーをはじめとする現代思想に立脚している(本文中には明記されていないが、著者はタイにルーツを持つ人物なので、もしかしたら仏教的な肉食に反対する思想も影響しているかもしれない)。その一方で、マルクス的な考察は全くされていない。マルクス的にいえば、なぜ屠殺場で非正規移民が雇われるのか。その方が低賃金で雇うことができ、労働組合を結成して権利を主張することが困難だからである。なぜこれほど作業のスピードが速く、労働者が危険にさらされ、衛生基準が無視されるのか。それは大量の牛を殺して食肉に加工するためには、作業のスピードを極限まで早める必要があるからである。いずれも最大限の利潤を上げるために行われていることであって、消費者が求めていることではない。仮にもっと作業のスピードが遅くなって、殺される牛の数が減り、牛肉の値段が高くなっても消費者は特に不満もなくそれを受け入れるだろう。

出版社ページより紹介を引用
1日に2500頭の牛が食肉処理される産業屠殺場
――その現場に政治学者が覆面労働者として潜入し、不可視化された暴力の実態を明らかにする。さらに屠殺の観察を通して、現代社会における監視と権力、暴力の恩恵を受ける多数者の矛盾と欺瞞、そして〈視界の政治〉の輪郭を浮かび上がらせる。
現代の屠殺場の壁の向こう側で何が起こっているのか、読者は知りたくないかもしれない。しかし、パチラットの驚くべき語りは、虐待された動物や貶められた労働者以上のものを教えてくれる。われわれが生きている社会がどのようなものであるか、目を開かせてくれるのである。―― ピーター・シンガー(『動物の解放』著者)


2023年4月16日日曜日

【おすすめ度●】石坂匡身・大串和紀・中道宏『日本は食料危機にどう備えるか』農山漁村文化協会, 2023年

現在の日本はコメ以外の食料の大部分を輸入に頼っており、カロリーベースの自給率は40%を下回っている。しかし、日本の経済力は急速に落ち込んでおり、円安も進んでいる。今後は今までのように外国から輸入ができるとは考えられない。このような状況を踏まえ、日本において食料危機に備えるための考え方を説明している。著者たちは元・農水省の幹部職員なので、アカデミックではなくいわゆる「官僚的」な書き方になっている。 内容:日本の食生活の現状 食料安全保障とは何か 日本は不足に備えているか 各国の備えの状況 備えの基本は農地の確保 農業、とりわけ水田農業の持つ意義

出版社ページより紹介を引用
環境負荷を抑える観点から耕地の拡大や化学肥料・農薬の投入が制約される一方、世界人口は増加傾向にあり、食料不足(「不足の事態」)はすぐそこまできている。さらに、今後は気象災害の頻発や紛争の勃発によって輸入が滞る「不測の事態」も増えてくるにちがいない。そうしたなか,日本の食料自給率の低下には歯止めがかからず、食料生産の基盤である農地の減少も下げ止まる気配がない。その危うい食料事情をデータから明らかにし、食料確保・食料自給率向上への道を、農地の確保とコモンズとして水田農業の再生を重点に大胆に提言する。



【おすすめ度○】野村総合研究所『カーボンニュートラル』日本経済新聞出版, 2022年

日本を含め、先進諸国が2050年でのカーボンニュートラル(CO2排出実質ゼロ)の実現を約束している。この本は、カーボンニュートラルとはなにかから始まって、カーボンニュートラルの全体像がコンパクトに分かる本。 内容:カーボンニュートラルとはなにか カーボンニュートラルを実現するための技術とソリューション カーボンニュートラルによる各業界への影響と機会 カーボンニュートラルの実現に向けた課題と対策

出版社ページより紹介を引用
●2030年度には13年度比で46%減らす
 菅前首相は所信表明演説で「2050年までのカーボンニュートラル」を打ち出した。欧州ではコロナ禍をきっかけに環境対策をさらに進めようとする「グリーンリカバリー」が進み、米国でもバイデン氏の大統領就任によってパリ協定への復帰が見込まれるなかでの発表だった。出遅れた日本は、企業の対策も突然まったなしとなったわけだが、「2030年度には13年度比で46%減らす」目標が追加され、カーボンニュートラルに向けた動きは、さらにヒートアップしている。
 本書は、こういった最新の動きを、考えの基本から実行の現場まで、体系的にまとめた1冊。
●企業向けに指南するシンクタンクの執筆陣
 野村総合研究所のカーボンニュートラル戦略グループのメンバーが本書の執筆陣。各業界に精通した執筆陣が、なかなか表に出てこないカーボンニュートルに向けての取り組みをかいつまんで解説する。手短に全般的な知識がわかる本ではあるが、政府等のマクロ的な動きのみならず、企業等のミクロ面の動きにページを割いているのが本書の特徴。


2023年4月14日金曜日

【おすすめ度☆】小林尚朗・篠原敏彦・所康弘 編『貿易入門 第2版』大月書店, 2023年

著者は明治大学商学部の教員 狭い意味の貿易だけでなく、南北問題や開発も説明されている。 内容:貿易の歴史 貿易の理論と課題 貿易政策 貿易実務 国際収支と外国為替 戦後貿易の制度(IMFとGATT) グローバル化とWTO体制 貿易と開発(南北問題) 多国籍企業と直接投資 地域主義・地域貿易協定 日本企業の国際化と国際マーケティング 農業と資源の貿易 貿易とサービス・環境

出版社ページより紹介を引用
大学1年生を主な対象に、貿易の基本をまるごと解説する好評テキストの改訂版。わかりやすさはそのままに、コロナ禍やウクライナ戦争の影響を含む最新状況を反映。貿易実務も解説しているので、国際ビジネスを志す方にも最適。




【おすすめ度☆】佐野啓介 編『フードビジネス最新キーワード64』日経BP, 2023年

野村総合研究所フードバリューチェーンチームによる解説。1キーワードあたり4ページでコンパクトに記述されているので、関心をもてるキーワードが見つかったらより深く情報を集めてみるとよい。

出版社ページより紹介を引用
食ビジネスの未来が見えてくる!
先端技術からグローバル動向までを網羅。
必須常識はこの1冊で。
ロボットキッチン、スマート農業、代替肉、昆虫食、ゴーストレストラン、ダークストア、農地バンク、食糧安全保障、エシカル消費など、食をめぐる64の最新用語を解説。

【本書の特徴】
・最新テクノロジーから新しいビジネスモデル、業界構造の変化、グローバル化への課題、サステナビリティやSDGsへの対応など、食産業の動向を幅広く網羅。
・単なる用語解説ではなく、「Consultant View」でこれからビジネスを展開するうえで必要となる「見立て」を紹介しています。
・わかりやすいイメージ図とグラフで、フードビジネスのいまとこれからがわかります。
・食品メーカー、外食産業、小売、物流企業、商社、農家、テックカンパニー、バイオ企業、スタートアップほか、フードビジネスに関わるみなさんにとって欠かせない情報を満載しています。


【おすすめ度●】郭四志『脱炭素産業革命』ちくま新書, 2023年

カーボンニュートラルに向けた経済の変革。技術革新、生活様式の変革、意識の変革、産業組織・経営モデルの変革、ロシアによるウクライナ侵攻の地政学的インパクトなど総合的多角的に論じている。

出版社ページより紹介を引用
今や世界的な潮流となっているカーボンニュートラルへの動きは、新しい生産・生活様式をもたらす新段階の産業革命である。各国の最新動向を徹底調査し分析する。
二〇二〇年代に入り、カーボンニュートラルに向け世界的に社会経済・産業構造は大きく変わった。脱炭素の実現目標が掲げられ、もう後戻りできない。いまなぜ脱炭素なのか。本書では、新たな段階の産業革命として現状をとらえ、新たな生産様式・生活様式が、エネルギー安全保障や資本主義・市場経済及びグローバル経済のグリーン化にまで至っている状況を分析。さらに資源国のパワー低下と脱炭素先進国の台頭による地政学的変動、さらに国際政治経済秩序の変容までを分析する。

【おすすめ度●】田中利幸『検証「戦後民主主義」 わたしたちはなぜ戦争責任問題を解決できないのか』三一書房, 2019年

この本では、昭和天皇の戦争責任を追及する立場から、昭和天皇の戦争責任を不問にしている「戦後民主主義」の限界を指摘している。

出版社ページより紹介を引用
空爆・原爆・平和憲法をキーワードに、 日本とアメリカの「戦争責任問題」を分析。
加害責任の切り落とされた「戦争記憶」はいかに作られ、今に至るのか!?
私たちは「歴史克服のための記憶法」をどのように創造するのか!?

2023年4月13日木曜日

【おすすめ度○】大竹久夫 編著『リン資源枯渇危機とはなにか』大阪大学出版会, 2011年

やや古い本だが、一般にはあまり知られていないが非常に深刻な問題であるリン資源の問題について多角的に説明している良書。リンの生化学的重要性、経済的重要性、国際政治上の重要性、リン資源枯渇の危険性およびリンのリサイクルの可能性などについて書かれている。

出版社ページより紹介を引用
地球上のリン資源の枯渇が迫り,思いもよらない人類の危機が予測される.なぜ知らないのか,なぜ危機を感じないのか.農作物に不可欠な肥料で,生命に不可欠,代替できない元素,リン.有機農法の肥料も,もとはリンを食べた動物からもたらされている.長い年月をかけて地中に蓄積する鉱石は肥料の価格抑制のため安価に取り出せる高純度なものしか使えない.肥料や廃棄物として拡散されたリンは効率的な回収を急ぐ必要がある. 


2023年4月9日日曜日

【おすすめ度●】中野敏男・板垣竜太・金昌祿・岡本有佳・金富子『「慰安婦」問題と未来への責任』大月書店, 2017年

慰安婦問題を考えるときにお勧めできる本。『帝国の慰安婦』論争に関わる章など、かなり予備知識を必要とする部分も多いが、そういう部分は読み飛ばしてかまわない。
ただし、今の若い人がいきなりこの本に取り組むと、「反日的すぎる」と感じて投げ出してしまうかもしれない。そういう時には、第6章の「破綻しつつも、なお生き延びる「日本軍無実論」」(永井和)だけでも読んでみるとよい。その上で、この本が「反日的だ」と感じることが正しいかどうか考えてみよう。

出版社ページより紹介を引用
政府間「合意」の評価をめぐる深い溝。日・韓の識者が、その原因を徹底検証し、未来に向けて果たすべき責任を探る。世界的に記憶されるべき「慰安婦」問題を引き継ぎ、戦時性暴力の歴史を断ち切るために。


【おすすめ度◎】本郷正武・佐藤哲彦編『薬害とはなにか 新しい薬害の社会学』ミネルヴァ書房, 2023年

薬害問題の理論と、現実の薬害問題の全体的構造がわかる良書。薬害問題を単なる自然科学的な薬品副作用の問題としてではなく加害と被害の関係ととらえ、加害と被害を生み出す社会的構造を明らかにしている。学部生にはやや難しいかもしれないがぜひおすすめ。 内容:薬害の定義と薬害概念 薬害被害と再発防止策 医療の不確実性と薬害 薬害事件の各論(サリドマイド、スモン、薬害エイズ、薬害肝炎) 薬害教育 薬害エイズ事件のメディア表彰 制度化から見る薬害と食品公害

出版社ページより紹介を引用
薬害とは、医薬品による単なる健康被害を越えて、生活や人生を壊される経験、誰にでも起こりうる理不尽としか言いようのない社会的経験である。本書は、薬害をめぐる加害と被害の経験およびそれによって社会でなされたこと/なされなかったことを体系的に明らかにする。



2023年4月8日土曜日

【おすすめ度☆】山と渓谷社編『アウトドア六法 正しく自然を楽しみ、守るための法律』山と渓谷社, 2023年

山や海でのアクティビティに関わる法律の紹介。登山、ハイキングや釣り、スキューバダイビングなどを趣味にしている人は知っておいた方がいい知識だし、山や海の自然保護に関する法律の入門書としても有用。

出版社ページより紹介を引用
「遭難した時の救助・捜索費用は払わないといけないの?」
「テント場・キャンプ場以外でテントを張るのって違法なの?」
知っているようで意外と知らないアウトドアに関する法律を分かりやすく解説する1冊。

近年のアウトドアブームにより、登山・キャンプ・釣り・SUPなどをはじめる人が増えていますが、マナー・ルールなどをしっかりと把握しないまま、知らないうちに違法行為を行っていたというケースも少なくありません。
また、アウトドアアクティビティを行う人同士でトラブルになり、裁判沙汰となってしまうケースも見受けられます。
こうした背景には、例えば「登山をすること」に関係する法律だけでも「自然公園法 (環境省)」「文化財保護法(文化庁)」「森林法(林野庁)」「軽犯罪法(法務省)」に加え、登山者同士の事故の場合は「民法・刑法(法務省)など担当する省庁の異なる法律が関係してきます。
これに加えて、各都道府県や市町村の条例も加わり、非常に複雑な体系をしていることが原因と考えられます。
本書は、そんな複雑に絡み合った法律を、「山」「川・湖沼」「海」「都市近郊・公園」といった場所ごとに章分けして解説した上で、各章の中で比較的メジャーなアクティビティについては、それぞれの注意点やQ&Aなどを設置し、わかりやすく解説します。


【おすすめ度☆】沼尾波子・池上岳彦・木村佳弘・高端正幸『地方財政を学ぶ[新版]』有斐閣ブックス, 2023年

地方財政の全体像が分かる教科書。ただし地方財政危機や財政再建はもう少し掘り下げてもよかったのではないかという気がする。地方財政の理念や制度の基本を踏まえた上で先進的なトピックにも触れられているので(ただし必ずしも掘り下げられてはいない)予備知識が全くない人には少し読みづらいかも。 内容:日本の地方財政 政府間(国-地方)財政関係 経費 予算 地方自治体の収入 地方税 地方交付税 国庫支出金 地方債 地方財政の歴史的展開 持続可能な地域づくりと地方財政 対人社会サービスと地方財政 地方公営企業、第三セクター 地方財政の展望


出版社ページより紹介を引用
社会保障と税の一体改革,地方創生などが推進され,地方自治体の財政も大きな影響を受けている。また,コロナ禍では自治体の役割の大きさが際立った。複雑な制度をわかりやすく解説して好評の地方財政論テキストを,初版刊行後のこれらの変化をふまえて改訂。

(旧版の紹介)
私たちの暮らしを支える身近な存在である地方財政を,具体的な例を交えて生き生きと描き出す。地方財政の理念や制度の基本から,応用的なことまで盛り込み,体系的に学ぶことができる。です・ます調でわかりやすく書かれ,地方財政を学ぶ最初の1冊に最適。


2023年4月7日金曜日

【おすすめ度●】中山琢夫『エネルギー事業による地域経済の再生』ミネルヴァ書房, 2021年

自治体レベルでの地域付加価値創造に注目しつつ、再生可能エネルギーと地域経済の関係を分析する良書 内容:地域付加価値創造の分析ツール 日本における地域付加価値創造モデル 再エネ電源間の比較分析 実例(太陽光、風力、小水力、地熱、木質バイオマス、熱電併給) 電力小売り事業  再エネの自治体政策への貢献 ドイツにおけるシュタットベルケ 分散化、デジタル化、再生可能エネルギー主力時代の新たな展開など

出版社ページより紹介を引用
地方自治体におけるエネルギー事業について、分析手法の基礎と分析事例を詳解、具体的に自治体政策における実践につながる要件を示す。
 「地方創生」が謳われて久しいがいまだその成果は明確でなく、むしろ東京一極集中を促進しかねない状況ともいえる。著者はこれまで、地方自治体で試みられているエネルギー事業について、その実践データを基に分析し、自治体の目標に合わせた形で、発電事業、熱供給事業、電力小売事業等における、地域経済効果(地域付加価値)のシミュレーションを行ってきた。地域に賦存する自然資源をいかに活用し、それがどれくらい地域の環境・経済に貢献し、持続可能な地域経済の発展につながるのか。本書ではその分析手法の基礎と分析事例を詳解し、具体的に自治体政策における実践につながる要件を提示する。
[ここがポイント]
◎ 地域にある自然資源の活用は、どの程度地域の環境・経済に貢献するのか。
◎ 環境、人口減少の課題解決を勘案した新しいまちづくりにむけた地域循環共生圏構想の方向性を展望する。



【おすすめ度◎】山形辰史『入門 開発経済学 グローバルな貧困削減と途上国が起こすイノベーション』中公新書, 2023年

理論に偏らない開発経済学の良い入門書。開発援助に関心がある人は、まず最初にこの本を読むといいと思う。 内容:開発の成果と課題 経済成長とイノベーションのメカニズム 国際社会と開発途上国 援助と国際目標など


出版社ページより紹介を引用
世界は今なお悲惨さに満ちている。飢餓、感染症、紛争にとどまらず、教育、児童労働、女性の社会参加、環境危機等、課題は山積みだ。途上国への支援は、私たちにとって重要な使命である。一方、途上国自身にも、新たな技術革新の動きが生じている。当事者は今、何を求め、それはどうすれば達成できるか? 効果的な支援とは何か? 開発経済学の理論と最新の動向を紹介し、国際協力のあり方や、今こそ必要な理念について提言する。

【おすすめ度●】田口淳一・青木美保『遺伝子検査のモラル』彩流社, 2023年

 遺伝子検査に関する基礎知識の説明を踏まえて、問題点を指摘している。

出版社ページより紹介を引用
遺伝子検査とはどういうもので、何が既知で未知なのか。社会的・倫理的な問題を具体的に問い、考える本。臨床遺伝専門医が語る。
遺伝子検査では何がわかって何がわからないのか。陥りやすい誤解や疑問点を取り上げ、臨床遺伝専門医や遺伝カウンセラーなど専門家が具体的なケースからリアルにわかりやすく伝える。医療者を介さずネットでも簡単に注文でき、安価になった遺伝子検査。遺伝性がん遺伝子検査、出生前検査、体質検査等の遺伝子検査が急速に普及しているが、受ける人のリテラシーが不十分なため、混乱したり、結果を受け止めきれないケースも多い。クローン人間、デザイナーベビーまで最先端の技術の面白さも伝えながら医療倫理について考える力をつけるための本。

2023年4月6日木曜日

【おすすめ度☆】雨宮純『あなたを陰謀論者にする言葉』フォレスト出版, 2021年

極端かつ非合理的なトランプ支持で注目されたアメリカの「Qアノン」をはじめとする、現在蔓延している陰謀論やスピリチュアルの見取り図を提供してくれる本。農工大の学生には環境保護に関心を持つ人が多いですが、環境保護も合理的・科学的に考えないとカルト的な陰謀論やスピリチュアルになりかねないことがわかる(ここでいう「科学」には社会科学も含まれます)。
この本では、「オウム真理教」と「幸福の科学」は実名を表示して取り上げられているが、統一教会をはじめとする他のカルト的宗教はほとんど取り上げられていない。つまり、この本で取り上げられていないからといって、それが安全・健全だということは全くないことには注意が必要。 主な内容:カウンターカルチャーとニューエイジ 自己啓発とマルチ商法 精神世界とスピリチュアル スピリチュアルと陰謀論 我々の日常に侵食してきた陰謀論

出版社ページより紹介を引用
アロマとQアノン 点と点を繋ぐ線とは――?
新型コロナウイルスによる世界的パンデミック、トランプ政権の終焉、中国の台頭……など、世界と社会が劇的に変化している今、日本でもQアノンなどの陰謀論がにわかに広がりを見せ、社会問題にまで発展している。
たとえば、「コロナウイルスワクチンはビル・ゲイツによる人口削減計画の一環」など、荒唐無稽な主張をする著名人もいる。バカらしいと感じる人がほとんどだろうが、実はこうした陰謀論に陥る落とし穴は、我々の身近にたくさん存在していることに自覚的な人は少ない。「チャネリング」「ホメオパシー」といった言葉が、怪しい世界と関連性があることは、なんとなく想像できるだろう。
しかし、「スティーブ・ジョブズ」「オーガニック」「アロマ」「量子力学」「ボードゲーム」という人名や一般名詞が、誰かを闇落ちさせる入り口の言葉になる可能性があるとは、想像がつかないのではないだろうか。事実、「癒し」や「自然」を掲げるスピリチュアルには安全なイメージを持つ人は多いが、米国ではヨガやスピリチュアルのインフルエンサーがSNSに陰謀論を投稿し、Qアノンの入り口となっていたことが指摘されている。
本書では、こうした何食わぬ顔をして点々と存在している「言葉」が、ある補助線を引くことによって、一つのミステリアスな奔流につながることを、歴史と膨大な文献を用いて突き止め、自身や身近な人を守るために、その危険性について警鐘を鳴らす。

あなたはこの事実を知っていたか?
◎「マクロビオティック」は日本人が生み出したもので、栄養学ではなく東洋思想が基盤。
◎「マーフィー」を日本に紹介した人物は「催眠商法の教祖」「マルチ商法の教祖」と呼ばれていた。
◎「シュタイナー教育」を創始したシュタイナーの原点は、ユダヤ陰謀論のキッカケをつくった神智学(後に脱退し、人智学を立ち上げる)。
◎『水からの伝言』の作者は、その理論を「ポエムであって科学ではない」と認めている。
◎「カイロプラクティック」はスピリチュアリズムを信仰していた開発者が、異世界からのメッセージを受け取って生まれた。
◎「スティーブ・ジョブズ」は民間療法に頼ったことを後悔していた。
◎石原慎太郎は「ネッシー」を探していた。
◎アメリカの議会議事堂を襲撃して逮捕されたQアノンシャーマンは、「オーガニック食品」しか受けつけない自然派マッチョだった。
…etc.