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2025年6月29日日曜日

【おすすめ度◎】早川タダノリ『「日本スゴイ」の時代』朝日新書, 2025年

最近ではめっきり少なくなったが、数年前まで日本の文化や社会を不自然に礼賛する「日本スゴイ」コンテンツがマスコミなどに氾濫していた。本書は、「日本スゴイ」ブームを読み解くことで、それが政府の政策や、右派運動と密接に結びついていたことを明らかにしている(「日本スゴイ」ブームが退潮したのも、一つの理由は「飽きられたから」であるが、政府の姿勢の変化したことの影響も大きいとされる)。
 「日本スゴイ」のように、いわば「煮詰められた」ものになると「これはおかしいんじゃないか」と気が付く人も少なくないだろうが、実は「日本文化論」や「日本社会論」には、単に言葉遣いが高尚なだけで、中身の水準は「日本スゴイ」と大差ないものが少なくない(その中には「大学教授」が書いているものも含まれる)。この本でも、タイの新聞に掲載されたという「日本がアメリカと戦争してくれたおかげでアジア諸国が独立できた」という論説が、実は元の新聞記事の実在を確認できないにもかかわらず、多くの人によってコピーされて喧伝されていることが、調査に基づいて指摘されている。そういったものに騙されないようにするためにも、この本は有用。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
「クールジャパン」「観光立国」を始めとする国家的文化政策を筆頭に、書籍・雑誌・ムックからテレビ・ラジオ番組、人材育成セミナーなど、さまざまな媒体を介して社会的に広がっていった「日本スゴイ」コンテンツは、どんな機能をはたしているのか――具体的なエピソードの中から読み解く。


【おすすめ度○】飛田雅則『資源の世界地図』日経文庫, 2021年

著者は日経新聞記者。資源問題について新聞記者らしいスタイルで書かれている。やや中国敵視に偏りすぎ。 内容:コロナとエネルギー 中国の資源戦略 レアメタルと中国 アフリカ資源開発の問題点 エネルギー転換と日本の選択など

出版社ウェブサイトから紹介を引用
脱炭素化の流れにまったなし! 再生エネが注目される中、鉱物資源の争奪は一層激しくなる。日本の戦略は? これからの見取り図を示す。

●菅首相の脱炭素化宣言
菅首相が、2050年までに温室効果ガスをゼロにする方針を打ち出した。これを受けて、各業界・企業は急激に動き出した。あと30年で何ができるのか。現場記者が日本・世界の最新の動向を追う。

●EUで始まったグリーンリカバリーが世界のスタンダードに
コロナ禍で外出が制限された20年の3~5月。イタリア・ベネチアの海が浄化され、インド・デリーの大気汚染が解消されたというニュースを聞いた人も多いだろう。EUではもともと環境規制が厳しかったが、これを契機に、脱炭素化を一気に進めようという機運が高まっている(これをグリーンリカバリーという)。そうなるといよいよ再生可能エネルギーの時代となるわけだが、再生エネの基幹部品に使われるレアアースやレアメタルなど鉱物資源の重要さが高まる。この「資源争奪」争いから一歩も二歩もリードしているのが中国である。
国連のSDGsの発表もあり、グリーンリカバリーの流れは世界に広がるだろう。石油に依存してきたサウジほか中東諸国は、「普通の国」になるべく努力をはじめ、アフリカは資源の戦場と化す。米国もバイデン大統領が、パリ協定への復帰を皮切りに脱炭素社会への道に舵を切る。

本書は資源・エネルギーをテーマに、現状を手っ取り早く理解するための基本書。これらの動きが、新しい地政学リスクを引き起こす事情も見えてくる。


2025年6月28日土曜日

【おすすめ度○】水口剛・高田英樹『サステナブルファイナンス最前線』金融財政事情研究会, 2023年/水口剛 編著『サステナブルファイナンスの時代』金融財政事情研究会, 2019年(2冊)

ESGをめぐる金融業界・投資界の国際的社会の動向の説明。専門性はかなり高い。
『サステナブルファイナンス最前線』内容:日本政府におけるサステナブルファイナンスの取り組み SDGsとインパクト サステナビリティ情報の開示 ESG評価やデータ提供の変遷 エンゲージメント ESG債とトランジション 地域創生における地域金融機関のサステナビリティ 自然のためのファイナンス 人的資本と経済的不平等
『サステナブルファイナンスの時代』内容:ESG債とは何か ESG債をめぐる論点 注目される背景 発行手続きと市場インフラ 発行状況 投資家層の動きとESG債ファンド 政府による支援策ほか

出版社ウェブサイトから紹介を引用
『サステナブルファイナンス最前線』
サステナブルファイナンスはもはやニッチではない!
◆サステナブルファイナンスをめぐる最新の動向や国際的な枠組み、今後の課題などを平易に解説。
◆金融庁サステナブルファイナンス有識者会議のメンバーを中心に、各分野の議論をリードする10人が各章を執筆。
◆もはやサステナブルファイナンスはニッチではなく、経済・社会のメインストリームのテーマとなりつつある理由が、この1冊で分かる。

『サステナブルファイナンスの時代』
券市場におけるESG/SDGsの現在を知るための必読書!!
◆新たな資金調達の手法として、近年、世界的な機関投資家や有力企業から注目を集めるサステナブルファイナンスとは何かを多面的に分析。
◆ESG債の発行・流通を支えるインフラを概観するとともに、内外の発行実績の詳細な分析を通じ、プライシングの実際やストラクチャーを解明。
◆機関投資家、発行体、評価機関、証券会社、学識者などの多様なプレーヤーが、ESG債市場の発展可能性、実務上の課題を考察。
ESGとは、SDGsとは?
ESGとは「環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)」、SDGsとは国際連合が採択した「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」を意味する。国際連合の呼びかけで2006年4月に公表された責任投資原則(PRI)を契機に、投資活動においても地球環境や社会の持続可能性に配慮することが世界的な潮流になりつつある。



【おすすめ度○】吉高まり『サステナブル金融が動く』金融財政事情研究会, 2023年

金融機関と企業を取り巻く気候変動政策の動向の説明。内容:カーボンプライシング カーボンクレジット・オフセット グリーンボンド(ESG債)と金融機関 金融機関が気候変動問題になぜ動いたのか

出版社ウェブサイトから紹介を引用
カーボンニュートラル社会実現に向けた処方箋
民間金融機関でただ一人COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)に15年以上参加し、日本の排出権ビジネスの草分け的存在である著者が、なぜ金融機関が気候変動問題、グリーンビジネスに動くのかを読み解く。サステナブルに関して、日本には大きなポテンシャルがある。これから金融機関がとるべきアクションとは?

 ※このページには茂木健一郎氏による「推薦」があるが、この本を読んでいるとは思えない「推薦」になっている

2025年6月27日金曜日

【おすすめ度●】田中宏隆ほか『フードテック革命』日経BP, 2020年

著者はコンサル「シグマクシス」関係者たち。食品関連の新技術やイノベーションをコンサルタントのスタイルで紹介する。内容:今なぜフードテックなのか フードイノベーションの全体像 アフターコロナ時代のフードテック 代替プロテイン パーソナライゼーションが作る食の未来 「食領域のGAFA」は登場するか フードテックによる外食産業のアップデート フードテックを活用した食品リテールの進化 食のイノベーション社会実装への道 「日本版フードテック市場」の創出など

出版社ウェブサイトから紹介を引用
2025年までに世界700兆円に達すると言われる超巨大市場「フードテック」--。
あなたの食体験はどう変わり、どんなビジネスチャンスが生まれているのか?

本物の肉のような「植物性代替肉」「培養肉」、
食領域のGAFAとも言われる「キッチンOS」、
店舗を持たないレストラン「ゴーストキッチン」、
Amazon Goに代表される「次世代コンビニ」・・・・・・。

With&アフターコロナ時代の「食」在り方を探索し、世界最先端のフードビジネスを徹底解説する日本初のビジネス書が、ついに刊行!

食品メーカーから外食、小売り、家電、IT、不動産まで、あらゆる業界を巻き込み、「食×テクノロジー」を起点とした新ビジネスが勃興する。
この世界で、日本のプレーヤーが、再び輝きを取り戻すための秘策とは--。
グローバルの変化を深く理解しながら、日本の現状とよりよい食の近未来を考える、「次のアクション」につながるビジネスのヒントが満載!


【おすすめ度○】小宮学『筑豊じん肺訴訟』海鳥社, 2008年

著者は筑豊じん肺訴訟勉五反事務局長(弁護士)。筑豊じん肺訴訟が、最高裁で国に勝訴するまでの18年の経緯が書かれている。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
国とは一体何なのか職業病に対して始めて国の行政責任を認めた筑豊じん肺訴訟最高裁判決。これは、その後の裁判の流れを変える大きな転換点となった。そこに至るまでの戦略、実践、挫折、そして残された課題。炭坑労働者やその妻たちと共に闘った日々を振り返り、いま改めて問う-。

【おすすめ度○】五十嵐敬喜『土地は誰のものか』岩波新書, 2022年

2020年の新土地基本法をめぐる論争(正確にいえば論争の不十分さ)を、1989年の土地基本法制定時と対比しながら説明する。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
空き家・空き地の増大は食い止められるのか。都市計画との関係や「現代総有」の考え方から解決策を探る。
 「太平洋戦争の敗北より深刻」と司馬遼太郎が嘆いた地価高騰・バブルから一転、空き家・空き地の増大へ。生存と生活の基盤である土地はどうなるのか。近年続々と制改定された、土地基本法と相続など関連する個別法を解説するとともに、外国の土地政策も参照し、都市計画との関係や「現代総有」の考え方から解決策を探る。



【おすすめ度☆】太田洋『コーポレートガバナンス入門』岩波新書, 2025年

コーポレートガバナンスの歴史と現状、取締役会に関する各国の制度、ESGのコーポレートガバナンスへの反映などを解説する、コーポレートガバナンスに関する教科書的な本だが、そもそもコーポレートガバナンス自体が高度に専門的なものなので、この本もタイトルに『入門』とついているにもかかわらず専門性が高い(会社法の世界ではこれでも『入門』レベル!!)。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
企業が投資家から評価され、中長期的な成長を実現するための切り札として「コーポレートガバナンス」重視の流れが世界的に強まっている。この概念はどのように生まれたのか、各国でどのような規律が行われているかなどを概説しながら、「コーポレートガバナンスの本質」を明確にし、ビジネスに必須の知識を提供する。

【おすすめ度○】蓮見雄・高屋定美 編著『カーボンニュートラルの夢と現実 欧州グリーンディールの成果と課題』文眞堂, 2025年

欧州グリーンニューディールの現実を多角的に詳しく検討する本。かなり専門性高いが良書。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
問われる欧州グリーンディールの実効性―カーボンニュートラルの社会実装は実現するか
カーボンニュートラルは人類共通の「夢」となった。だが「夢」は、その実現のための具体策が伴わなければ「現実」を変える力とはならない。いま問われているのは、その社会実装である。先頭を走るEUはGXの法整備を着々と進め、企業も適応を迫られている。本書は、エネルギー・環境、産業、金融・財政、市民社会という多角的な視点から、EUの成長戦略=欧州グリーンディールを批判的に検討し、その実効性を問う。
主要目次
総論
 序章 欧州グリーンディールの成果と社会実装の課題
第Ⅰ部 エネルギー・環境
 第1章 風力発電と送電インフラ
 第2章 グリーン・ディールの中の太陽光─REDⅢ,導入の加速化,サプライチェーンリスク─
 第3章 グリーン水素市場創出の主導権確保を目指すEU
 第4章 EUによる炭素国境調整メカニズムの背景,論点,今後の展望
第Ⅱ部 産業
 第5章 EUグリーンディール産業政策のカギを握る欧州自動車産業
 第6章 ポーランド車載電池大国における「競争と協業」の新たな事業展開
 第7章 EUプラスチック政策および関連国際動向─循環経済の視点から─
 第8章 欧州グリーンディール「自然の柱」と農業─戦略的対話へ向けて─
 第9章 EUサーキュラー・エコノミー戦略の要点と現状
 第10章 欧州新産業戦略の展開と財政・金融
第Ⅲ部 財政・金融
 第11章 EUタクソノミーの拡張,CSRD/ESRS,企業持続可能性デューディリジェンス指令の動向
 第12章 欧州グリーン・ディールとサステナブル・ファイナンス─欧州グリーンボンド市場を中心に─
 第13章 ドイツにおけるグリーンディールの概要とその展望
 第14章 オランダのASN銀行によるサステナブル・ファイナンスの取組み
 第15章 英国におけるグリーンファイナンス戦略の特徴と展望
第Ⅳ部 市民社会
 第16章 EGDの「公正な移行」とグリーンジョブの創出
 第17章 EUリノベーション戦略と建設エコシステムの課題
 第18章 EUの気候変動対策におけるEU市民の役割
 第19章 ポーランドにおける原発計画と市民意識
課題
 第20章 欧州グリーンディールと国際協力




【おすすめ度☆】南川文里『アファーマティブ・アクション 平等への切り札か、逆差別か』中公新書, 2024年

アファーマティブアクション(積極的差別是正措置)の歴史と、アファーマティブアクションをめぐる賛成派・反対派の論争について書かれている。アファーマティブアクションに関する教科書的な本。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
「積極的差別是正措置」と訳されるアファーマティブ・アクション。入試や雇用・昇進に際して人種やジェンダーに配慮する取り組みだ。1960年代、公民権運動後のアメリカで構造的な人種差別解消のため導入されたが、「逆差別」「優遇措置」との批判が高まる。21世紀には多様性の推進策として復権するも、連邦最高裁は2023年に違憲判決を下した――。その役割は終わったのか。アメリカの試行錯誤の歴史をたどり考える。



【おすすめ度○】桂幹『日本の電機産業はなぜ凋落したのか』集英社新書, 2023年

著者は元immation日本法人常務取締役(著者の父は元シャープ副社長) 著者は、自分と父の経験に基づき、日本の電機産業凋落の原因を「誤認」「慢心」「困窮」「半端」「欠落」の「5つの大罪」から説明している。
誤認の罪:デジタル化の方向性を見誤り、デジタル化に適合した製品を開発できなかった。例えば、動画配信が主流になる時期にブルーレイディスクを開発した。
慢心の罪:日本企業の技術力は隔絶して水準が高く、他国が追いつくことはできないと思い込んでいた。
困窮の罪:日本の電機産業が衰退し始めたとき、将来につながる投資を削減してしまった。
半端の罪:日本的労使関係を新しい時代に合わせて発展させるのでもなく、かといってアメリカ的労使関係に転換するのでもなかった。
欠落の罪:問題点が明らかになった時に、反省して対処することができなかった。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
かつて世界一の強さを誇った日本の製造業。
しかし、その代表格である電機産業に、もはやその面影はない。
なぜ日本の製造業はこんなにも衰退してしまったのか。
その原因を、父親がシャープの元副社長を務め、自身はTDKで記録メディア事業に従事し、日本とアメリカで勤務して業界の最盛期と凋落期を現場で見てきた著者が、世代と立場の違う親子の視点を絡めながら体験的に解き明かす電機産業版「失敗の本質」。
ひとつの事業の終焉を看取る過程で2度のリストラに遭い、日本とアメリカの企業を知る著者が、自らの反省もふまえて、日本企業への改革の提言も行なう。
この過ちは日本のどこの会社・組織でも起こり得る! 
ビジネスパーソン必読の書。


【おすすめ度◎】山室真澄『魚はなぜ減った?』つり人社, 2021年

 1993年以降の宍道湖でのシジミやウナギ、ワカサギなどの激減の理由を、ネオニコ系農薬によって餌が減ったためだと推定。農薬の影響を考えるときに、個々の生物に対する影響だけでなく、生態系全体への影響を考える必要があることがわかる。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
近年ミツバチの大量死などで注目を浴びた「ネオニコチノイド系農薬」。日本の水田で広く使用されているこの農薬は魚にも悪影響を及ぼしているのではないか? と懸念した釣り人も多いだろう。
東京大学大学院新領域創成科学研究所教授である著者は、卒業論文・修士論文・学位論文のすべてを、宍道湖をテーマに書いた。そのデータを駆使し、「化学分析」という武器をもとに釣り人が抱いた懸念と同じ疑問に切り込んでいく。
著者はデータを積み重ね、裁判の判決文のように明確な論理をもって、ネオニコチノイド系農薬が水中の食物連鎖を破壊し、その結果同湖におけるウナギとワカサギの漁獲高が激減したという結論を導き出す。また、その過程では非常に興味深い注目すべき事例も次々に明らかにされていく。それは私たちが漠然と抱いている常識を覆す内容や、さらにはネオニコチノイド系農薬使用以前にも他の要素で水辺の生態系が激変していた事実が明らかにされる。
SDGs、生物多様性の重要性が叫ばれるいま、本書によって著者の視点を共有し知識を得ることは、釣り人をはじめ水辺を愛する人たちの視野を広げ視界を明るく照らし考えを深め、あるべき姿の生態系を取り戻すための大きな指針となるに違いない。
2019年11月、東京大学・山室真澄教授らによる論文が世界で最も権威ある学術誌のひとつ『Science』に掲載された。それは島根県・宍道湖の魚類の減少に農薬が関係していることを明らかにしたものだった。



【おすすめ度○】瀬戸口明久『害虫の誕生 虫からみた日本史』ちくま新書, 2009年

有機塩素系をはじめとする、戦後の強力な殺虫剤が開発される以前の害虫防除に関する文化史。昔の人も、害虫と決して「共生」などしていなかったことがわかる。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
江戸時代、虫は自然発生するものだと考えられていた。そのため害虫による農業への被害はたたりとされ、それを防ぐ方法は田圃にお札を立てるという神頼みだけだった。当時はまだ、いわゆる“害虫”は存在していなかったのだ。しかし、明治、大正、昭和と近代化の過程で、“害虫”は次第に人々の手による排除の対象となっていく。日本において“害虫”がいかにして誕生したかを、科学と社会の両面から考察し、人間と自然の関係を問いなおす手がかりとなる一冊。


【おすすめ度○】吉村良一・寺西俊一・関礼子『ノーモア原発公害』旬報社, 2024年

2022年6月17日の最高裁判決の批判を中心にして、福島原発事故訴訟の現状を解説する本。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
福島原発事故は、単なる自然災害ではなく、政府の規制権限不行使や電力会社の対策不備が引き起こした人災であり、公害事件である。
原発事故に対する国の責任を否定した6.17最高裁判決は、本来論ずるべき点を「スルー」した「杜撰」で「政治的」なものであった。それがお墨付きとなり、現在の原発回帰政策の進展へとつながっている。
国の取るべき責任、判決の問題点、司法の役割、原発回帰政策などを問い直す。


2025年6月9日月曜日

【おすすめ度◎】ハワード・スティーヴン・フリードマン『命に<価格>をつけられるのか』慶應義塾大学出版会, 2021年

交通事故の裁判では、被害者が死亡したら損害賠償金はいくらにすべきかを決めないといけない。アメリカでは、9.11テロ事件の時に、犠牲者に対して政府が補償金を支払ったが、その際に政府が支払った補償金額が高所得者ほど大きな金額になり社会の批判を受けた。このように、生命、健康などを金銭的に評価する考え方、特に統計的生命価値(Value of Statistical Life)の考え方と現実を検討する良書。

出版社ウェブサイトより紹介を引用
▼人の命についている「値段」とはいったい何?
▼テロ事件の犠牲者の補償金が違うのはなぜか?
▼命の「正しい」価値づけは存在するのか?

9.11 テロの犠牲者、殺人事件、死亡事故の賠償金はどのように決められるのか? 生命保険や公害対策のために計算される人命の価値とは?
経済学者、統計の専門家、規制当局が駆使する「統計的生命価値(VSL)」の豊富な例をわかりやすく解説し、「人の命」とは何かという問題に向き合う。





2025年6月8日日曜日

【おすすめ度◎】ケイト・ブラウン『プルートピア』講談社, 2016年

アメリカとソ連の核兵器開発拠点だったハンフォード(リッチランド)とオジョルスク(チェリャビンスク40)の地域の歴史を詳しく調べることで、アメリカとソ連の核兵器開発によって地域にどのような被害が生じていたかを明らかにする良書。この本を理解するための前提条件として、冷戦期の国際政治の状況と、アメリカ・ソ連の核兵器開発に関する基礎知識が必要。

出版社ウェブサイトより紹介を引用
“プルートピア”は「特異なユートピア」である。アメリカはワシントン州東部のリッチランドに、ソ連はウラル山脈南部のオジョルスクに、プルトニウムの街・原子力村としての“プルートピア”をつくりだした。本書は、東西冷戦という境界を越えてプルトニウムが米ソを結びつけプルートピアを生みだした経緯に注目する。インタビューと膨大な公文書記録をもとに、チェルノブイリ、福島と繰り返されてきた惨劇の源泉を掘り下げる。
 “プルートピア”は、アメリカとソ連が、第二次世界大戦後の社会の欲望を満たすためにつくりあげた、「特異なユートピア」である。そのいびつな理想郷は、国家の秘密プロジェクトであり、核兵器製造の“原子力村”でもあった。アメリカはワシントン州東部のリッチランドに、ロシアはウラル山脈南部のオジョルスクに、プルトニウムの街としての“プルートピア”をつくりだした。リッチランドのハンフォードとオジョルスクのマヤークには、それぞれにそっくりの核製造施設があり、“プルートピア”という酷似した凄惨な経験が、チェルノブイリと福島の悲劇の前に存在したのだ。
 本書は、国境を越えた軍拡競争の歴史を、核爆弾製造にかかわった人々の暮らしや土地と結びつけて考察し、東西冷戦という境界を越えてプルトニウムが米ソを結びつけプルートピアを生みだした経緯に注目する。核爆弾製造現場で働き、被曝者となった二つの地域に暮らす人々によって語られた驚愕の事実の数々――。インタビューと膨大な公文書記録をもとに徹底追跡する著者は、チェルノブイリ、福島と繰り返されてきた惨劇の源泉を掘り下げることに成功した。

2025年6月6日金曜日

【おすすめ度○】白井さゆり『環境とビジネス』岩波新書, 2024年

「環境経営」の現状を手際よく紹介する良書。 内容:排出量データ可視化 カーボンプライシング 環境(機構)金融とタクソノミー カーボンクレジットなど

出版社ウェブサイトより紹介を引用
温室効果ガスの排出削減に努め、開示する「環境経営」が企業の長期的価値を高める。環境リスクをチャンスに変えるための入門書。
現在のビジネスの在り方を見直し、気候変動を含む環境リスクに対応する「環境経営」が企業の長期的価値を高める。カーボンニュートラルを掲げて行動を始めている世界のトレンドから影響を受けずにすむ企業はない。温室効果ガスの排出削減に努めそれをいかに開示していくか。気候変動リスクをチャンスに変えるための入門書。



2025年6月3日火曜日

【おすすめ度●】吉村良一『政策形成訴訟における理論と実務 福島原発事故賠償訴訟・アスベスト訴訟を中心に』日本評論社, 2021年

公害訴訟に関する高度な論点の分析(この本は超専門的)。 内容:政策形成訴訟の意義と限界 公害・環境法理論の生成・発展と弁護士の役割 学者(研究者)の役割 共同不法行為法と四日市公害訴訟 福島原発事故賠償訴訟 アスベスト被害 損害賠償訴訟と疫学 基地爆音差し止め など。

出版社ウェブサイトより紹介を引用
公害訴訟において訴訟の政策形成機能が語られることが多い。福島原発賠償・アスベスト訴訟の2021年2月までの諸判決から検討する。



【おすすめ度☆】伊藤和子『ビジネスと人権』岩波新書, 2025年

近年、関心が高まっている「ビジネスと人権」に関する教科書的な本。もっとも、2025年の本なのに、イスラエルのイの字も出てこないのだけど。 内容:なぜビジネスと人権なのか 「ビジネスと人権に関する指導原則」とは何か ソフトローからハードローへ 人権デューディリジェンス 日本企業が直面する人権問題

出版社ウェブサイトから紹介を引用
私たち一人一人が国連のビジネスと人権に関する指導原則を知り、企業による人権侵害が横行する社会を変えていくための一冊。
人を人とも思わないやり方で搾取し蹂躙する社会が国内外の企業活動で生じている。企業は国際人権基準を尊重する責任を負い、国家には人権を保護する義務があり、人権侵害には救済が求められる。私たち一人一人が国連の「指導原則」が示す「ビジネスと人権」の発想を知り、企業風土や社会を変えるための一冊。