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紹介する本が増えてきたのでまとめます。 【おすすめ度◎】の本(特におすすめする本、このページの下の方に) 【おすすめ度☆】の本の一覧はこちら (教科書あるいは入門書的な本) 【おすすめ度○】の本の一覧はこちら (読むことをおすすめする本) 【おすすめ度●】の本の一覧はこちら (専...

2023年6月30日金曜日

【おすすめ度○】長坂寿久 編著『フェアトレードビジネスモデルの新たな展開』明石書店, 2023年

「フェアネス」を理念とするフェアトレード運動を概観する本 内容:フェアトレードとフェアトレードタウンの基礎知識 現在のアンフェアトレードの非継続性 持続可能な発展・開発の動向とフェアトレード SDGs時代のフェアトレードと倫理的貿易 日本のフェアトレードタウン基準 企業とフェアトレード 国際フェアトレード認証制度 フェアトレードの新しい展開(メキシコのフェアトレードコーヒー、ラオス他) 小規模農民の視点からみたフェアトレード 日本におけるフェアトレードの認知率と市場規模 ほか

出版社ウェブサイトから紹介を引用
開発途上国の生産者の生活改善という点のみならず、コミュニティ開発の仕組みがビルトインされているフェアトレードのビジネスモデル。また、フェアトレードには社会的・環境的・倫理的調達の側面が包含されており、その点で今後、日本と開発途上国間のビジネス交流の新しいモデルの可能性をもっているといえる。
本書では、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を踏まえ、日本と途上国間のコミュニティビジネスの構築や途上国との倫理的商品開発の視点から、日本のフェアトレードビジネスモデルの興隆のあり方を調査研究し、政策提言を行う。




2023年6月26日月曜日

【おすすめ度☆】木下武男『労働組合とは何か』岩波新書, 2021年

労働組合・労働運動に関して、労働組合の歴史から戦後日本の「日本的労使関係」、今後の展望まで概観する教科書的な本。学生の皆さんは、労働組合というと「労働者の利益を放置して、平和運動や選挙活動ばかりやっている」という偏った印象を持ってしまっているかもしれないけど、この本には「そもそも労働組合とは本当はどういう存在なのか」という原点から説明されている。この本では「労働者の権利を守るために、労働者が団結し、労働者の間の競争を抑制すること」が重要視されるけど、労働者として働いた経験が少ない学生の皆さんには直観的にわかりにくいかも。 内容:ヨーロッパでのギルドから労働組合への変遷の歴史 アメリカの労働組合の歴史 日本の労働組合運動の歴史 特に戦後の「日本的労使関係」の下での労働組運動の批判的分析 労働組合発展の可能性

出版社ウェブサイトから紹介を引用
日本では「古臭い」「役に立たない」といわれる労働組合。しかし世界を見渡せば、労働組合が現在進行形で世界を変えようとしている。この違いの原因は、日本に「本当の労働組合」が存在しないことによる。社会を創る力を備えた労働組合とはどのようなものなのか。第一人者がその歴史と機能を解説する。





【おすすめ度○】村上信一郎『ベルルスコーニの時代』岩波新書, 2018年

最近(2023年6月12日)に亡くなったシルヴィオ・ベルルスコーニ イタリア元首相を通じて、腐敗して混迷するイタリア政治を描いている。犯罪組織マフィア(およびカモッラなど類似の組織)が巨大な影響力を持つ一方で、冷戦終結後に左派勢力が混迷し、「オリーブの木」のロマーノ・プロディ氏や、「ひょうたんから駒」的に共産党員だったマッシモ・ダレーマ氏が首相になってもその機会を全く生かせなかった。そもそもベルルスコーニが政界に進出したのも、社会党のベッティーノ・クラクシ首相と「親密」な関係があったからだが、後にクラクシは汚職を追及されてイタリア国外に逃亡し、そのまま国外で死去する。クラクシ以外にも多くの政治家が汚職やマフィアとのつながりを追及されて「権力の空白」が生じたところにベルルスコーニが機会を得た(ベルルスコーニ自身も腐敗政治家であり、マフィアとの関係もあったにもかかわらず)。犯罪組織マフィアとの関係を絶たなければ政治がまともになるわけがないが、いったん社会にマフィアが深く入り込んでしまうと、マフィアとの関係を断つことが極めて難しくなる。
 またこの本で驚いたのは、イタリアでも1993年の選挙制度改革で小選挙区・比例代表並立制が導入されていること。日本・ロシアでもほぼ同じ時期に小選挙区・比例代表並立制が導入されているが、イタリア・日本・ロシアという(率直にいえば)民主主義の劣等生たちがほぼ同時にこの選挙制度を導入したのは偶然なのだろうか。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
大衆的な人気に支えられ,マフィアと癒着し,メディアを買収する……民主主義の復興を模索するイタリアに,新たな腐敗の構図を生み出したシルヴィオ・ベルルスコーニ.彼はトランプにも先駆けたポピュリスト政治家だったのか.現在にも至る政治的迷走をもたらしたスキャンダラスな政治家の実像に迫る.




【おすすめ度◎】クリス・ミラー『半導体戦争』ダイヤモンド社, 2023年

半導体ビジネスの発祥期から現在までの企業興亡の歴史。激しい競争が行われ、それに生き残った少数の企業に全世界の半導体生産が集中していく。この本で見る限り、日本はすでにほぼ脱落し、ヨーロッパも危ない。(なぜ日本やヨーロッパが敗北しつつあるのかというと、やはりアメリカほど激しく競争的な社会ではないからではなかろうか)
 著者は半導体と軍事の関係を非常に重視しており(最先端の高性能プロセッサによって兵器の精密なコントロールが可能になり、AI専用プロセッサが発展すればいずれは無人兵器も可能になる)、半導体産業においてアメリカが覇権を維持することが重要だと考えている。この点で、半導体産業は自動車産業などとは全く異なる。なお筆者はソフトウェアの発展よりも、それを高速で実行できるプロセッサの発展こそ重要だと考えているようだ。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
自動車や家電だけでなく、ロケットやミサイルにもふんだんに使われる半導体は、今や原油を超える「世界最重要資源」だった。国家の命運は、「計算能力」をどう活かせるかにかかっている。複雑怪奇な業界の仕組みから国家間の思惑までを、気鋭の経済史家が網羅的に解説。NYタイムズベストセラー、待望の日本語訳!


【おすすめ度☆】山崎雅弘『日本会議 戦前回帰への情念』集英社新書, 2016年

「なぜ、世界の中で日本だけ、夫婦別姓が認められないのか?」(現在、夫婦が必ず同じ姓を名乗らなければならないことを法律で定めているのは世界の中で日本のみ。日本以外の全ての国が夫婦が別の姓を名乗ることを認めている。)ということに疑問を持った人は、この本を読めばその疑問の答えの「一部」がわかる。ただし、この本は題名通り日本会議を「主人公」にした本だけど、日本会議だけが政治に影響を及ぼしているわけではないという点は注意が必要。この本に書かれていることで、全てがわかったつもりになってはいけない。 内容:安倍政権と日本会議のつながり 日本会議の人脈と組織 日本会議の「精神」:戦前・戦中を手本とする価値観 安倍政権が目指す方向性:教育・家族・歴史認識・靖国神社 日本会議はなぜ「日本国憲法」を憎むのか

出版社ウェブサイトから紹介を引用
安倍政権と日本会議は、なぜ「日本国憲法」を憎むのか。
 欧米メディアが「日本最大の右翼組織」と報じる日本会議。安倍政権の閣僚の半数以上が日本会議と直接的につながる議員団体に属するなか、日本の大手新聞・テレビは両者の関連性をほぼ報じてこなかった。
 本書では日本会議の“肉体”(人脈・組織)と“精神”(戦前戦中を手本とする価値観)、教育や靖国をめぐるその“運動”を詳説し、日本会議と安倍政権が改憲へと傾倒する動機が、かつて日本を戦争に導いた国家神道を拠り所とする戦前回帰への道筋にあることを指摘。気鋭の歴史研究家が日本会議を近視眼的な“点”ではなく、史実をふまえた“線”としての文脈から読み解く、同組織の核心に触れるための必読書である。



【おすすめ度●】大島俊也『自治体の産業振興担当になったら読む本』学陽書房, 2023年

産業振興の政策や補助金など制度の話もあるけど、実際に産業振興の仕事に取り組む上で必要となるノウハウが豊富。産業振興というのは自治体の仕事の中ではかなり異質で、民間との付き合い方が(一歩間違えば「事件」になりかねないことも含めて)難しいことがわかる。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
自治体で産業の振興を担う部署に配属になった方向けの本です。
民間の企業や団体と手をとり、地域の活性化のために取り組む産業振興。
自由な発想が活きる部署ではあるものの、はじめての人にとっては、「具体的に担当者は何をしたらよいのか」「どうやって民間の人と関係をつくればよいのか」「どんな施策が振興につながるのか」など、悩みや不安がつきものです。
本書は、そんなはじめての方が、教科書として使える基本的な知識や仕事の内容、実務のコツなどをまとめています。
産業に強いまちづくりを長年現場で支えてきた現役公務員の著者が、リアルな事情を交えながら、徹底的に現場目線で解説。自治体の担当の方はもちろん、地域の産業振興を一緒に担う民間の方にもおすすめの1冊です。


【おすすめ度☆】有村俊英・日引聡『入門 環境経済学 新版』中公新書, 2023年

主流派的な環境経済学の概説書。2002年に出版された本の「新版」だが、内容は飛躍的に充実している(事実上、別の本と言ってよい)。新版が出たので、2002年の版を今から読む理由はない。 内容:環境経済学の概観 環境問題と市場の失敗 政策手段の選択 環境税・規制・補助金 環境問題は交渉によって解決できるか ごみ処理有料制とその有効性 日本の大気汚染政策と世界の現状

出版社ウェブサイトから紹介を引用
私たちは製品やサービスを消費して豊かな生活を享受する一方で、気候変動や廃棄物汚染、生態系破壊など多くの環境問題に直面している。経済活動と環境保全は相反する関係にあるが、バランスのよい最適解はどこにあるのか? 本書は経済学の基礎理論を押さえ、それを環境問題に応用して望ましい政策を検討する。旧版にカーボンプライシングなど最新テーマを大幅加筆して、豊かな環境を引き継ぐための制度設計を提示する。


2023年6月22日木曜日

【おすすめ度●】境家史郎『戦後日本政治史』中公新書, 2023年

戦後憲法体制の形成から始まり、現在の「ネオ55年体制」(著者の用語)に至る戦後政治史の概説。「55年体制」の時代が詳しく説明されて、「政治改革」の時代(1990年代~小泉政権)を経て日本政治の「再イデオロギー化」が進み、現在の日本政治を「ネオ55年体制」(自民党の一党優位の再現)と位置付けている。
 この本では、「政権交代の可能性がきわめて低い」と「首相のリーダーシップが弱い」という2つの55年体制の弱点を解消することが、1990年代の政治改革の目標だったとしています(282p)。「政治改革」の結果として、「首相のリーダーシップの強化」は成功したが「政権交代の可能性を高める」ことには失敗して自民党一党優位の「ネオ55年体制」が出現したと評価されています。
 しかし、この点では著者の述べていることに疑問があります。本当に1990年代の「政治改革」で「政権交代の可能性を高める」ことが目指されたのかは疑問と言わざるを得ません。現在の小選挙区・比例代表並立制のように大きな比例代表があったら、小さな野党でも消滅することはないので、野党のイデオロギー的な分極化がなくなることはありえません。別な言い方をすれば、現在の小選挙区・比例代表並立制の下では、比例代表で野党同士が争うのだから(当然、野党はイデオロギー的に分極化する)、小選挙区で野党が統一して自民党と戦うことは困難です。つまり、小選挙区・比例代表並立制が導入された目的は、政権交代の可能性を高めることではなく、自民党一党優位を確立し、かつ自民党内でも総裁(通常は首相)に権力を集中することだったのではないかと考えざるを得ません。
 1990年代の「政治改革」の一つのきっかけは、1991年の湾岸戦争に日本(自衛隊)が参戦しなかったため、多額の資金支援を行ったのにもかかわらずクウェートから感謝されなかったこと(いわゆる「湾岸のトラウマ」159p)です。つまり日本を「戦争する国」にすることが「政治改革」の一つの目的でした(「政治改革」の目的はそれだけではないですが)。現在では、自民党内の派閥対立がほぼ解消されたので、自民党の内部から自衛隊の海外派兵に反対する大規模な「造反」が起きる可能性はなくなりました。これこそが「政治改革」の顕著な成果ではないかと思います。その点で、ベトナム戦争に自衛隊を参戦させることなど考えられなかった「55年体制」の時代と現在は全く違う状況であり、現在を「ネオ55年体制」というのは不適切だと思います。
 この点に疑問があるので、入門書的な本ですがおすすめ度は☆ではなく●にしました。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
日本国憲法の枠組みの中にある戦後日本政治。自民党と社会党のイデオロギー対立は1960年の安保改定問題で頂点を迎える。以降、自民党は経済成長に専心し、一党支配を盤石にした。80年代末以降は「改革」が争点となるも、民主党政権を経て、第二次安倍政権以降は再び巨大与党と中小野党が防衛問題を主な争点として対峙している。本書は憲法をめぐる対立に着目して戦後政治をたどり、日本政治の現在地を見極める。


2023年6月21日水曜日

【おすすめ度○】門奈弘己『化学災害』緑風出版, 2015年

近年開発された化学物質が原因となって発生する災害を「化学災害」と名付け、化学災害の事例を「工場・倉庫その他の施設(セベソ、ボパール、国内工場での爆発など)」、「自然災害」、「輸送中の事故」、「住宅内での化学災害」に分類し、それぞれの安全対策を考察する本。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
化学災害とは、化学物質が大きく関わっている爆発や火災、漏えいなどの事故のことである。大きな化学災害として、イタリアのセベソ事故やインドのボパール事故が有名である。最近では、中国でも度々起きている。だが、化学災害は工場だけではない。道路や住宅での火災も、化学物質がからんでいる場合が多い。便利で快適な暮らしは、石油などの化学物質に負うところが大きい。本書は、様々な化学災害を例に取り、いかに身近に危険がひそんでいるか、どうすれば避けられるかを考える。



2023年6月19日月曜日

【おすすめ度●】株式会社G.B.『水族館めぐり』株式会社G.B., シーズン1:2020年、シーズン2:2023年

見ていて楽しい水生の生き物たちの写真集。かつて江ノ島水族館(まだ「新江ノ島水族館」ではなく「江ノ島水族館」だったころ)には付属の「怪獣海獣動物園」がありました。小学生の時に、学校の遠足で「カイジュウ動物園」に行くと説明されたとき、いったいどんな動物がいるのかと思ったら(さすがに小学生でも「怪獣」でないことは分かっていた)「海の動物=アシカなど」でした。

版元ドットコムから紹介を引用
コロナ禍の状況にあっても水族館の魚さんの環境は変わりません。今でも水の中をゆっくりと流れる時間軸の中で泳いでいます。そしてその色とりどりでありながら優美な姿や海中のゆったりとした環境は我々人間を時に癒して、そして心を穏やかにしてくれます。水族館とは単なるレジャー施設ではないのです。本書はそんな各地の水族館を美しい魚さんの写真中心で紹介したのが本書です。全40施設、全て新たに取材し、時には飼育員の方にしか見せない魚さんの姿を数多く掲載。全国の水族館ガイドとしても使え、そして魚や海中の写真集としても楽しめるオールカラーでハイブリットなガイド書です。

【おすすめ度☆】共生エネルギー社会実装研究所『脱炭素の論点 2023-2024』旬報社, 2023年

1テーマ2~4ページ形式で気候変動問題(脱炭素)の概要と、技術的対策の紹介、日本での取り組み状況を概説している。なお共生エネルギー社会実装研究所所長の堀尾正靭(ほりおまさゆき)先生は東京農工大名誉教授。
この本には気候変動(脱炭素)に関わる論点のほぼ全体がカバーされているけれど、例外として気候変動の問題をめぐる先進国と発展途上国の対立という論点が抜けていて(「南北問題」という単語は出てくるけど、説明は一切されていない)、この本を読んだだけだと「先進国は、将来世代の利益のために真剣に気候変動対策に取り組んでいるけど、発展途上国は遅れている」という誤解をする恐れがあります。実際には、気候変動(に限らず地球環境問題)は大部分先進国が引き起こした問題であり、先進国に主たる責任があります。
1992年の「アジェンダ21」や気候変動枠組み条約のころは、先進国と発展途上国には「共通だが差異ある責任 Common But Differentiated Responsibility (CBDR)」があると言われていましたが、最近はこの言葉はあまり聞かなくなった気がします。


出版社ウェブサイトから紹介を引用
いま、最も注目される「脱炭素」問題のすべてがわかる!
環境・エネルギー分野の第一線で活躍する執筆陣が、地球温暖化の現状・対策から再生可能エネルギー、カーボンニュートラルによる地域活性化まで、97の主要テーマを図入りでコンパクトに解説。



2023年6月15日木曜日

【おすすめ度☆】山崎康夫『カーボンニュートラルに向かう食の事業変革』幸書房, 2023年

カーボンニュートラルの実現に向けた農業・畜産・水産・食品製造・食品流通・フードチェーンの脱CO2事例集とカーボンニュートラル制度の紹介(1テーマ2ページ形式)

「田舎の本屋さん」ウェブサイトから紹介を引用
2015 年におけるパリ協定の採択を受けて、2020 年10 月に日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。「排出を全体としてゼロ」というのは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの「排出量」から、植林、森林管理などによる「吸収量」を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。
本書では、食品産業で働く人々に対して、カーボンニュートラルとはどのようなものか、食品産業にとっての脱炭素化はどうあるべきか、食品産業で働く我々は何を提案したらよいのか、農業・畜産業・水産業・食品製造業・食品流通業・消費者においては脱炭素化に関してどのような行動ができるのか、などを読者にわかりやすく、事例も交えて伝えるもので、食品産業におけるカーボンニュートラル入門書となります。
本書は、2021 年11 月に「SDGs で始まる 新しい食のイノベーション」が発刊されたのに続く第二弾のシリーズとなります。

【おすすめ度☆】田代洋一『農業政策の現代史』筑波書房, 2023年

第2次世界大戦後を概ね10年ごとに区切って、それぞれの時代の日本の農政の特徴を明らかにする教科書。1960年代は「基本法農政の時代」、1970年代「現代農政」、1980年代「農業縮小の時代へ」、1990年代「グローバル化の中の農業」、2000年代「政権交代期の農政」、2010年代「官邸農政」と位置付けたうえで、日本農政の「これまでとこれから」でまとめている。農政について述べるときに、通商交渉、価格所得政策、農地政策、農業と農協に着目している(農協が特に取り上げられているのは著者の特有の視点といえる)。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
「1960年代─基本法農政の時代」、「1970年代─現代農政へ」、「1980年代─農業縮小の時代へ」などのテーマで1960年代以降の60年間の日本農政の展開をほぼ10年区切りで追跡した。


2023年6月10日土曜日

【おすすめ度○】セス・J・フランツマン『「無人戦」の世紀』原書房, 2022年

ドローン兵器の歴史の本。ドローン兵器(などの無人兵器)が増加することによる政治的影響の分析はあまり書かれていない(書かれて無いわけではない)。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
冷戦期から実戦投入の時代、そしてAI化・群体化したドローン戦の未来まで、データに裏付けられた情報をもとに紹介、無人戦時代を包括的に捉えた注目の一冊。元CIA長官デヴィッド・ペトレイアス将軍も「非常に重要な一冊だ」と絶賛!



【おすすめ度☆】岡山裕・前嶋和弘『アメリカ政治』有斐閣ストゥディア, 2023年

この本一冊でアメリカの政治の仕組みが一通りわかる本。この本のように、重要なことをきちんと押さえた上でコンパクトにまとめることは、実は難しい。コンパクトにまとめようとして重要なことが抜けてしまったり、細かいことまで全て網羅しようとして長大になりすぎてしまうことは多い。 内容:アメリカ人の世界観・政治観 アメリカの政党システム 選挙 利益団体と社会運動 メディアと世論 政治的インフラストラクチャー 連邦議会 大統領 司法府 官僚機構 連邦制と地方自治 内政と外交の政策形成過程 分極化時代の政治過程

この本を読んで感じたのは、アメリカでは政権交代が重要な機能を果たしていること。アメリカでは、政権交代(大統領が共和党から民主党、あるいは民主党から共和党に代わること)によって、4000人近くの政府高官が交代し、大統領が代わりの人を選任する。政権交代によって政府の職を離れた人がシンクタンクや民間企業に就職し、逆にシンクタンクや民間企業から政府高官が選ばれる。この仕組みを「回転ドア」と呼ぶ。この「回転ドア」にはもちろん弊害もあるけど、アメリカ社会を活性化させていることは間違いない。
 アメリカでは、民主党政権になれば共和党寄りの人は野党側になり、共和党政権になれば民主党寄りの人が野党側になる。つまり政権交代がある限り、「ずっと政府側の人」というのは存在しない。日本では政権交代の可能性は小さく、「政府寄り」の人はずっと政府にべったりで、「野党寄り」の人はずっと政府を批判しているばかり。そのような日本に比べれば、アメリカの政治ははるかに健全に見える。
 ただし、現在は民主党と共和党の勢力が拮抗しているが(2023年6月10日現在で上院は民主党系51議席・共和党48議席、下院は民主党212議席・共和党222議席)、これは偶然で、この本を見る限り特に両党を拮抗させるための仕組みは存在しておらず、実際に1980年代のレーガン共和党政権の登場以前は民主党がはっきり優位だった。ただし第3の党の出現を妨害する仕組みはかなり強力で、民主党・共和党に続く第3党を創ろうという試みは今まで何回もあったけど、全て(アメリカ国政政党としては、事実上)失敗している。
 不思議に思ったのは、「その中でカーネギーやロックフェラー、フォードなどの主流派財団が、人種差別解消や多文化共生的な目的を意識した研究に1950年代から60年代に助成し、リベラル派の知的基盤となっていった。」と書かれていたこと(110ページ)。なぜ主流派財団が人種差別解消や多文化共生的に助成したのだろうか? やはり当時はベトナム戦争の時代だったので、アメリカ国内での対立を防ぐ必要があった(特に、黒人に戦争に協力してもらい、兵士になってもらう必要があった)からだろうか?

出版社ウェブサイトから紹介を引用
情報量の多さの割に,勘違いされがちなアメリカ政治。本書は,個々の出来事を追うだけでなく,その背景や政治制度の仕組みを多角的に解説する。どのような主体や制度が,どのように活動・作動しているのか。アメリカ政治の「からくり」を明らかにする。