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紹介する本が増えてきたのでまとめます。 【おすすめ度◎】の本(特におすすめする本、このページの下の方に) 【おすすめ度☆】の本の一覧はこちら (教科書あるいは入門書的な本) 【おすすめ度○】の本の一覧はこちら (読むことをおすすめする本) 【おすすめ度●】の本の一覧はこちら (専...

2023年5月31日水曜日

【おすすめ度☆】西井正弘・鶴田順 編著『国際環境法講義』有信堂, 2022年

国際環境法の総論と各論をカバーする良い教科書。ただし学部生にはやや難しいかもしれないので、わからないところは読み飛ばしてよい。 内容:国際環境法の形成と展開 持続可能な発展 予防原則・予防的アプローチ 国際環境法における手続き的義務 国際環境法における履行確保(国家報告制度、不遵守手続きなど) 日本における国際環境法条約の実施 気候変動(地球温暖化) オゾン層保護 海洋汚染 海洋生物資源の保存 生物多様性 希少野生動植物種 有害廃棄物の越境移動 貿易と環境 国際河川 宇宙

出版社ウェブサイトから紹介を引用
地球規模の環境問題に対する法的な理解を深め、発展著しい国際環境法の全体像の把握に迫る。
過去の典型的紛争の判例・事例を含む、最新情報で学ぶ。


2023年5月28日日曜日

【おすすめ度☆】中田達也『英語は決まり文句が8割 今日から役立つ「定型表現」学習法』講談社現代新書, 2022年

著者の英語学習指導に対する熱意がすごい本。おすすめ。 内容:定型表現が重要な理由 定型表現の分類と特徴 定型表現の学習法など

出版社ウェブサイトから紹介を引用
「単語と文法を一生懸命勉強したけれど、英語が使いこなせない」と悩むすべての人へ――。

英語は単語で覚えてはいけない!
第二言語習得の専門家が伝授する、最小の努力でネイティブに近づく「英語学習の新定番」。

「文法と単語のどちらにも属さない定型表現は、雑多なものとして切り捨てられ、英語教育(=実践)においても、言語学(=理論)においても、長らく軽視されてきました。
しかし、技術が進歩し、大量のテキストをコンピュータで分析できるようになると、書き言葉・話し言葉の多くが、実は定型表現で構成されていることが明らかになってきました。母語話者の書いたり話したりした言葉のうち、5~8割程度が定型表現で構成されているという推計もあります。 スマートフォンの予測変換を使って文章を書いていると、予想外に適切な表現が提案されるので驚いてしまうことがあります。我々の用いる言葉の多くは定型表現で構成されるため、産出された語句の後にどのような語が続くかを高い精度で予測できるのです」――「はじめに」より

いよいよ「主役」へと躍り出た定型表現を学ぶ「8つの利点」とは?
(1)言語使用の正確性が上がる
(2)言語使用の流暢性(=スピード)が上がる
(3)言語を使って様々な機能を遂行できるようになる
(4)状況にあった適切な言語を使用できるようになる
(5)すでに知っている単語への知識が深まる
(6)未知の単語を覚えるきっかけとなる
(7)文法知識の習得が促進される
(8)ある共同体(コミュニティ)への帰属を示す


2023年5月27日土曜日

【その他】「すべての訪問者は、日本軍兵士がいかに勇気があり命をささげたかを語るべきだ」…第二次大戦のニミッツ提督の言葉が残る日米の激戦地・ペリリューに「いま米軍が今戻ってきている理由」(牧野愛博・朝日新聞外交専門記者)

 朝日新聞外交専門記者の牧野愛博氏が、『「すべての訪問者は、日本軍兵士がいかに勇気があり命をささげたかを語るべきだ」…第二次大戦のニミッツ提督の言葉が残る日米の激戦地・ペリリューに「いま米軍が今戻ってきている理由」』という文章を公表しています(牧野氏は朝日新聞の記者ですが、この文章が掲載されているのは朝日新聞ではありません)。

ニミッツ提督は第2次世界大戦中のアメリカの軍人です。では、牧野氏が「すべての訪問者は、日本軍兵士がいかに勇気があり命をささげたかを語るべきだ」と訳している「ニミッツ提督の言葉」は英語でどう表現されているかというと、以下の通りです。

Tourists from every country who visit this island should be told how courageous and patriotic were the Japanese soldiers who all died defending this island. (改行) Pacific Fleet Commander in Chief (U.S.A.) C. W. Nimitz ※原文はすべて大文字

英語を読むと、"Tourists ... should be told"云々となっており、「すべての訪問者は...語られるべきだ」が正しい訳で、牧野氏が訳している「すべての訪問者は...語るべきだ」は誤訳です。この「ニミッツ提督の名言」が、英語として不自然なので誤訳してしまったのでしょう。
 ペリリュー島にある「ニミッツ提督の名言」の碑には、上記の英文に加えて、以下の日本語文も書かれているのですが、なぜか牧野氏はこの日本語文をそのまま引用せず、英語から翻訳して誤訳しています。「ニミッツ提督の名言」の碑の日本文は以下の通りです。

諸国から訪れる旅人たちよ この島を守るために日本国人がいかに勇敢な愛国心をもって戦い そして玉砕したかを伝えられよ 米太平洋艦隊司令長官 C.W.ニミッツ

 これを見ると、英文版が不自然なのに対して、日本語版は(やや気取った文章ですが)自然な文章になっていることがわかります。日本語版では「旅人たちよ...伝えられよ」となっており、これは「旅人たちが伝えてほしい」という意味ですが、英語では"Tourists ... should be told"=旅人たちが伝えられるべきだという不自然な英語になっています。やはりこれは、日本語版が先に作られて、それから日本語をよく知らない人が、日本語版の「伝えられよ」という気取った表現を理解できず、「伝えられる」と誤解して英語に翻訳したのではないかと考えざるをえません。もちろんニミッツはアメリカの軍人なので、もし本当にこれがニミッツの言葉なら、日本語版が英語版より先に作られることはありえません。したがってこの「ニミッツ提督の名言」はニミッツ提督が実際に発言したものではなく、日本人が捏造したものであると考えられます。(なお、この「諸国から訪れる旅人たちよ...伝えられよ」という文言は、紀元前480年のテルモピュライの戦いで戦死したスパルタ兵の忠誠心を讃えて作られた碑文が元ネタです)

 この「ニミッツ提督の名言」は、日本語版が名越二荒之助氏(元高千穂商科大学教授、2007年死去)の1987年の著作(『世界に生きる日本の心-ドキュメント二十一世紀へのメッセージ』展転社, 1987年)で紹介されて有名になったものです。ただし、この「ニミッツ提督の名言」(日本語版)は、名越氏の著作以前から存在が確認されているので、この「名言」を捏造したのは名越氏ではありません。もちろん、1987年の時点では、「原文」であるはずの英語版は「発見」されていませんでした。

この牧野氏の記事から、以下のことを学ばなければなりません。
・朝日新聞の「外交専門記者」であっても、(朝日新聞紙上ではないとはいえ)このような疑わしい文章を書いている
・大学教授(名越二荒之助氏)も、疑わしい情報を広めている
・英語を学ぶことは大事

 この「ニミッツ提督の名言」の場合には、日本語版と英語版で食い違いがあり、英語版が不自然な英語なので捏造であると判断できますが、このような事例は例外で、もし英語版がいかにもニミッツが言いそうなもっともらしいものであったら、それが捏造であることを見破ることは困難です(ニミッツの全ての発言をチェックしないとそのような発言をしていないことは立証できないが、そのためには膨大な労力が必要)。
 その場合に重要なのが、「出典が示されているかどうか」です。出典が示されていれば、それを確認することで、捏造かどうか判断することができます。

 

2023年5月9日火曜日

【おすすめ度◎】須田桃子『合成生物学の衝撃』文藝春秋, 2018年

やや古いが(といっても出版からたった4年しかたっていないのだが!)、アメリカでの最先端の生物学研究の状況、特にその軍との関係のルポルタージュ。 内容:生物学を工学化する 人工生命体プロジェクト 究極の遺伝子編集技術 遺伝子ドライブ 旧ソ連の生物兵器開発 アメリカ国防総省DARPAの生物科学研究 科学者と軍事 ベンターの人工細胞プロジェクト

出版社ウェブサイトから紹介を引用
〈人類は、人工的にヒトを作り出す技術を手にした!〉
新型コロナウイルスへの切り札、「mRNAワクチン」ってなに?
ノーベル化学賞を受賞したゲノム編集技術「CRISPR?Cas9」(クリスパー・キャスナイン)。なにがすごい?
遺伝子改変したヒト受精卵から双子を誕生させた中国の研究者はなぜ有罪に?

――答えはすべて本書にある。
いま注目の「合成生物学」とは何か?
生命の設計図であるゲノムをデジタルデータとして読み取り、改変することを可能にした「合成生物学」。この技術によって、伝染上の撲滅や新薬開発、砂漠の緑地化といった様々な利益が期待される一方、未曾有の破壊的生物兵器など軍事転用の危険もある。
さらに、ある天才科学者によって、自然に存在しない人工生命体が誕生した!

ヒトを人工的に作り出す――。それはもはや夢物語ではない。
『捏造の科学者』で大宅賞を受賞した著者による、現代人必読の科学ノンフィクション。


2023年5月7日日曜日

【おすすめ度●】大嶽秀夫『自由主義的改革の時代』中央公論社, 1994年

若い人には、自分の生まれる前のことなのでイメージしづらいかもしれないが、激動の時代だった1980年代(主に中盤まで)、言い換えれば中曽根康弘政権時代の「改革」の詳細な分析が書かれている。この本を見ると、2019年に死去した中曽根康弘・元首相が、1980年代の時代の流れにうまく乗っかった卓越した政治家だったことがわかる。
 なおこの本は1994年の本であるにもかかわらず、1993年の「政治改革」は全く扱われていない。「政治改革」で問題になった自衛隊海外派兵も、重要な「対立軸」としては捉えられていない。1980年代にはまだ自衛隊の海外派兵に賛成する人は少数に限られており、自民党内でも圧倒的に反対多数だったので、主要な「対立軸」を構成することはなかったのであろう。そういう状況は30年以上が経過した現在ではすっかり変わっている。 内容:戦後日本における3つのイデオロギー的対立軸 1:経済政策をめぐる対立軸(経済的自由主義と社会民主主義) 2:道徳的・社会的争点をめぐる対立軸(伝統的保守主義と社会的自由主義) 3:参加と統治をめぐる対立軸(参加民主主義と私生活中心主義) 行政改革の登場と展開 国鉄 電電 健康保険 臨教審 民活から土地臨調へ 中曽根政治の光と影
【「TRC MARC」の商品解説】
国鉄分割・民営化や民活政策など、80年代政治をゆるがせた中曽根行政改革の理念と政治過程を具体的に分析し、現在の混乱する政治から脱脚するための指針を提示する。中曽根政治の光と影を追究する書。


2023年5月6日土曜日

【おすすめ度○】本田雅和・風砂子デアンジェリス『環境レイシズム アメリカ「がん回廊」を行く』解放出版社, 2000年

「環境レイシズム」という言葉を日本に紹介した最初期の本。有害物質を扱う施設や廃棄物処分場、放射性廃棄物処分場などが貧困層や非白人、アメリカ先住民などが居住している地域に作られている現場のルポルタージュ集。

【「TRC MARC」の商品解説】非白人の共同体が、核のゴミを始めとする有害廃棄物の処分場や迷惑施設の立地先として集中的な被害を受けている。この「環境レイシズム」或いは「環境差別」最前線の議論と現場からの告発等を中心にまとめる。



【おすすめ度●】平野恵嗣『もの言う技術者たち  「現代技術史研究会」の70年』太郎次郎社, 2022年

主に企業の中で、さまざまな矛盾に悩みながら技術者としての生きざまを通そうとした人たちの記録。現在とはあまりにも時代状況が違う上に、この本には社会状況の説明がほとんど書かれていないので、今の若い人には共感しづらい(それ以前に理解しづらい)点が多いかもしれない。

出版社ウェブサイトから紹介を引用
大量生産と大量消費につきすすんだ戦後。産業や国家からの要求にこたえ、効率化と「進歩」を追求する技術者は、その負の側面も日々目撃することになる。続発する公害、人間の疎外と管理、経済格差の拡大⋯⋯。経済発展に沸く時代のなか、みずから手がける技術の功罪を問い、「人間のための技術」を論じあう場があった。
専門性や組織の壁を越え、思想の地下茎をつないだ「現代技術史研究会」の実像を、メンバーの歩みとともに語る。


2023年5月4日木曜日

【おすすめ度☆】常石敬一『化学物質は警告する』洋泉社, 2000年

古い本だが、化学物質に関する面白いエピソード集 取り上げられている化学物質は、化学兵器・ヒ素・窒素・塩素・青酸・リン・水銀・PCB・ダイオキシン・フロン・環境ホルモンなどの有害物質。

「新書マップ」より紹介を引用
当初、多くの化学物質は、人類の生活を豊かにする面が強調され、消毒薬や殺虫剤などの原料として広く使われてきた。 それらは一方で、化学兵器の生産や環境破壊を引き起こした。 だが、二〇世紀末に突如として出現した内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)は、人類の将来を破壊する“時限爆弾”になってしまった。 近代化学の歴史と失敗の教訓から、人類が生存するための方途を展望する。



【おすすめ度○】木村元彦『コソボ 苦闘する親米国家 ユーゴサッカー最後の代表チームと臓器密売の現場を追う』集英社インターナショナル, 2023年

東ヨーロッパの社会主義政権が消滅した後、ユーゴスラビアではスロヴェニア/クロアチア/ボスニア・ヘルツェゴビナ/セルビア/モンテネグロ/北マケドニアの6つの国に分裂した。コソボは、その中のセルビアから2008年に分離独立した国で、日本をはじめ多くの「西側諸国」が独立直後にコソボを承認している。
 この本の中では、コソボでの臓器密売問題の章が重要。この問題を追及したデル・ポンテ検事(Del Ponte, イタリア人、女性)の著書"The Hunt: Me and the War Criminals"は2008年に出版されたが翻訳されていない。これは「親西側」の国の犯罪は報道されにくいという事例の一つ。私もコソボでこのような問題が発生していることを知らなかった。

出版社ページより紹介を引用
ベストセラー『オシムの言葉』の著者、木村元彦が描く「旧ユーゴサッカー戦記」シリーズの決定版。
旧ユーゴスラビア7つ目の独立国として2008年に誕生したコソボ。
1999年のNATOによる空爆以降、コソボで3000人以上の無辜の市民が拉致・殺害され、臓器密売の犠牲者になっていることは、ほとんど知られていない。
才能あふれる旧ユーゴのサッカーを視点の軸に、「世界一の親米国家」コソボの民族紛争と殺戮、そして融和への希望を追う。サッカーは、民族の分断をエスカレートさせるのか、民族を融和に導くのか……!?


【おすすめ度○】ロバート・ビロット『毒の水』花伝社, 2023年

近年、有害物質PFASが多摩地区でも検出されて関心が高まってきているが、アメリカではかなり以前から問題視されていた。この本は、アメリカでPFAS汚染問題の第一人者とされる弁護士の記録。会話文が多いルポルタージュのスタイルなので、本の書き方が合う人と合わない人がいると思う。

出版社ページより紹介を引用
「永遠の化学物質」による汚染と被害は、あまりに身近すぎた
くっつきにくいフライパン、クッキングシート、フライドポテトの袋、アイシャドウ、そして水道水……これらに含まれるPFAS(有機フッ素化合物)は、一度体内に取り込まれると消えることなく蓄積し、がんや潰瘍性大腸炎などの原因となる──長年隠されてきた事実を暴き、巨大企業を告発した一人の弁護士の、人生を賭けた壮絶な闘いの記録。
日本でも注目のPFAS汚染を知らしめた記念碑的名著、待望の邦訳!
映画『ダーク・ウォーターズ』原作本

【おすすめ度◎】藤川賢・友澤悠季 編『なぜ公害は続くのか』新泉社, 2023年

「公害は「過去」のものではない。」という文章からもわかるように、公害問題を「過去の不幸な出来事」とするのではなく、現在まで継続する問題として公害問題を振り返り、現代的意義を分析している。具体的に取り上げられているのは、足尾銅山事件、水俣病事件、産業廃棄物問題、カネミ油症事件、熱帯雨林破壊、マーシャル諸島核実験被害、環境正義、立地(NIMBY)問題、公害資料館と公害経験の継承、環境リスクの問題など。
 この本は、公害問題に真摯に取り組み、公害問題の本質、つまり加害者と被害者の対立関係に深く踏み込む良書だが、残念ながらこの本には欠落していることがある。日本の公害問題の対処にあたって、革新自治体が果たした役割は決定的に大きいのだけど、この本には革新自治体のことが書かれていない。そのため、現代の分析でも、「地域(自治体)から変えていく」という戦略が見落とされている。
 また、公害問題の対処にあたって、革新自治体と並んで被害者が裁判に訴えて勝訴したことも非常に重要であった。この本でも裁判について触れられてはいるが、あまり詳しくはない。
 この本は上記のような限界はあるものの、今の時代にあえて「公害」をタイトルにし、内容的にも公害問題の本質に迫っていることはきわめて高く評価できる。

出版社ページより紹介を引用
公害は「過去」のものではない。
問題を引き起こす構造は社会に根深く横たわり、差別と無関心が被害を見えなくしている。
公害の歴史と経験に学び、被害の声に耳を澄まし、犠牲の偏在が進む現代の課題を考える。
公害を生み続ける社会をどう変えていくか——。
〈公害の歴史が教えるのは、見えていたはずのものが不可視化されていく過程である。その背後には、環境侵害の影響を背負わされるのが社会的に弱い立場の人びとに偏るという、公害の最初期から続く社会構造もある。
公害の「解決」を強調する動きが、実は公害発生の経緯を引きずるものであり、現在の環境問題にも影響を与えているのであれば、不可視化の仕組みに注意し、それに対抗する方法を考える必要がある。——編者〉



2023年5月3日水曜日

【おすすめ度○】橘川武郎『エネルギー・シフト』白桃書房, 2020年

やや難しいが、再生可能エネルギー主力電源化のための条件を詳しく検討している。なおこの本の本題からは外れてしまう論点だが、この本では柏崎刈羽原発の売却を提案しているが(76ページ)、いまさら原発を買おうという会社があるのだろうか? 狂信的に原発に固執するフランス国営電力(EDF)なら買うかもしれないけど、外国資本に売ることを考えているのだろうか。 内容:「差異性下のエネルギー主力電源化」と直面する課題 第5次エネルギー基本計画の検討 主力電源化への2つのアプローチ 原子力発電をどうするか カギ握る使用済み核燃料の処理 火力発電をどうするか CCSとCCU 水素がエネルギー構造全体を変える可能性 再生可能エネルギー主力電源化の担い手は誰か

出版社ページより紹介を引用
第一人者が、エネルギー問題を包括的・現実的に捉え30年先を見据えた解決策を提言!
増刷の際に、このところ目まぐるしい動きを見せる最新のエネルギー政策の解説も収録!
 新型コロナ・ウイルスは世界経済に大きな打撃をもたらしたが、その衝撃波は、エネルギーの分野にも及んでいる。注目すべきは、エネルギー需要全体が大きく減退する中で、再生可能エネルギー需要が堅調に推移してきていることである。CO2を排出するエネルギーから排出しないエネルギーへのシフト、集中型のエネルギー供給システムから分散型のエネルギー供給へのシフトという大きな流れ、つまり「エネルギーシフト」すなわちエネルギー転換といえる動きが改めて明確になったのだ。この勢いは、パンデミックを克服した後の世界では一層強まることになろう。
 加速するエネルギーシフトの動きに取り残された感が強い日本政府も、2018年に閣議決定した「第5次エネルギー基本計画」で、2050年までに「再生可能エネルギーの主力電力化」をめざす新しい方針を打ち出した。さらに2021年4月の気候変動サミットで温室効果ガスの大幅な削減を打ち出した。
 本書は、このような状況の中で、「再生エネ主力電源化」を本気で実現するために何をすべきかについて、正面から論じていく。リアルな議論を展開するため、再エネ発電だけでなく、原子力発電・火力発電・水素利用などの動向も視野に入れ、エネルギー問題を包括的に検討、さらに、「再生可能エネルギー主力電源化への道」それ自体については、(1)既存の枠組みを維持したままのアプローチと、(2)「ゲームチェンジ」を起こす新たな枠組みを創出するアプローチの双方を採り入れる必要があると、この課題に果敢に、かつ冷静に取り組む。
 政府機関や自治体の担当者、電力・ガスなどエネルギー産業関係者、またエネルギー事業への参入を狙う方たちにとって必読の書であるが、議論の過程では石炭火力発電「悪者」論や原子力政策の近視眼的なありようも批判しており、エネルギー問題に関する俗論などについて第一人者の見解を知ることもできる。その根拠を示しつつ、我々は何をどう選択することができるのかを考えさせる、幅広い読者がそれを自分ごととして捉えるのに有用な一冊である。

【第6刷収録の「おわりに」PDFダウンロードはこちら】
・初刷刊行以降、目まぐるしい動きを見せてきたエネルギー事情・エネルギー政策を重版時に追記してきた「おわりに」をダウンロードできます。特に、最新の6刷では30年度の電源構成見通しにあたって必要な総発電電力量削減のため「産業縮小シナリオ」が導入されたこと、その他、刊行以降目まぐるしく大きな展開をしてきたエネルギー政策やイベント、また欧州でのエネルギー危機に関する分析がコンパクトにまとめられ収録されています。

【おすすめ度○】仁藤夢乃 編著『当たり前の日常を手に入れるために 性搾取社会を生きる私たちの闘い』影書房, 2022年

性搾取被害から若い女性を守るために、アウトリーチ(バスカフェ)活動やシェルター活動に取り組んでいる団体(Colabo)の活動の紹介

出版社ページより紹介を引用
「行き場のない私に真っ先に声をかけてきたのは、買春者か性搾取業者でした」
 日本では、虐待や貧困などで行き場を失い性被害に遭うなどして困っている若年女性が、自分から公的な機関へ助けを求めることは難しく、また公的支援につながったとしても、管理体制の厳しさなどからそこからこぼれ落ちてしまい、多くは自己責任で生き抜こうとしています。
 学校や家が安心して過ごせる場でなくなり、渋谷で週5日過ごしていた自身の経験を記した『難民高校生』や、少女を「JKビジネス」に取り込む業者の手口を分析した『女子高生の裏社会』などの著書がある仁藤夢乃さんが代表をつとめる一般社団法人Colaboでは、行き場のない若年女性が性搾取などの危険に取り込まれる前に、繁華街での声をかけ(アウトリーチ)等で彼女たちとつながり、相談や役所などへの同行、一時シェルター、シェアハウスの提供などで、困っている女性を支え、「共にある」活動を行なっています。
 また、大きな反響を呼んだ「私たちは『買われた』展」をはじめとする若年女性の性被害の実態を伝える活動では、女子高生を性的に価値の高い商品かのように「JK」と呼び、「児童買春」を「援助交際」と言い換え、「ブランド物ほしさに好きでやっているんだろう」と、児童買春被害を見て見ぬふりしてきた大人社会に、その責任を問うてきました。
 本書では、Colaboの11年の活動を振り返りつつ、仁藤夢乃さんによるColaboにつながる女の子へのインタビューや、学校教育や女性福祉の専門家、弁護士、困窮者支援の活動家らと仁藤さんとの対談も収録。Colaboの核にある〈対等な関係性〉や〈当事者主体の活動〉がどのようにして可能になったのかを明らかにします。


【おすすめ度●】森林投資研究会 編『諸外国の森林投資と林業経営』海青社, 2019年

題名の通り、世界における森林投資の現状分析 内容:世界における森林所有と森林投資 日本の製紙企業にみる海外森林投資の歴史と世界の森林投資の今日 ベトナム・インドネシア・ニュージーランド・オーストラリア・アメリカ・ハンガリー・東アフリカの実例


出版社ページより紹介を引用
世界の林業が天然林採取的な林業から人工林育成的林業へと移行しつつある今日、古くから育成的林業に移行した日本では育林経営が厳しい現状にある。世界に目を向けると従来型の農民的林業とTIMOやT-REITといった新たなタイプの育林経営の並存が見られる。それらを実態をもとに考察し、世界の動向の中で日本の育林業を考える書。口絵15頁付(現地カラー写真)。


【おすすめ度☆】大島寿美子ほか『大学の歩き方・学問のはじめ方』ミネルヴァ書房, 2023年

大学1年生に向けた大学生活への案内 内容:大学生の一日 大学生って何だろう 自分で自分を成長させる 情報を使いこなそう 大学生活で困ったら 大学生として働くということ 講義って何だろう 数字を活用しよう 書くことに親しむ 口頭で伝える、表現する

出版社ページより紹介を引用
大学ってどんなところ?大学生になるってどういうこと? 大学生として歩き出す君を、さまざまな角度から応援するテキスト。第Ⅰ部では、高校生との違いを考えながら、はじめの一歩を踏み出す準備を整える。第Ⅱ部では、「場所」としての大学と大学生の暮らしを見つめながら、「大学の歩き方」を身に付ける。第Ⅲ部では、学問をスタートさせるうえで習得したいスタディスキルの基本を学ぶ。

[ここがポイント]
◎ 初年次(1年生)の学生は、未知の経験に対する不安を緩和し、主体的に学んだり人と関わったりするための態度や姿勢が学ぶことが出来る
◎ 上の学年の学生は、社会との関係や自分の進む道を意識しながら、大学生活や学問について改めて考えることが出来る。




2023年5月2日火曜日

【おすすめ度●】長谷部恭男『増補新版 法とは何か 法思想史入門』河出ブックス, 2015年

著者は思想史研究者ではなく憲法学者なので、思想史研究者とは違った観点から法思想の歴史を述べている。おそらく多くの人にとっては(私自身を含む)、思想史の専門家が書いた本よりこの本の方が問題意識が明確でわかりやすいのではないかと思います。 内容:法はあなたにとってどういう存在か 何のための国家か 平和と自己防衛を目指す国家(ホッブズ) 個人の権利を保障する国家(ジョン・ロック) 自由を保全する国家(ルソー) 永遠に完成しない国家(カント) 人々がともにいきるための立憲主義 国家と法の結びつきは人々の判断にどう影響するか 法の規範性と強制力(ケルゼンとハート) 法と道徳の関係(ハートとドゥオーキン) 法が法として機能する条件 法と国家 民主的に立法することがなぜ良いのか なぜ多数決か 民主制の過去から学ぶ 法に従う義務はあるか 道徳がすべてなのか

出版社ページより紹介を引用
人が生きていく上で法はどのような働きをするか。先人の思想の系譜を読み解き、法と共により善く生きる道を問う、法思想史入門の決定版。普遍的な道徳と個人の生き方が衝突する場での法解釈を増補。


【おすすめ度○】エリン・ブロコビッチ『スーパーマンは来ない』緑風出版, 2023年

本の題名からはふざけた印象を受けるが、中身はまじめなアメリカの水質汚染問題・有害化学物質問題の概説書。最近、多摩地区でも検出されて問題になっているPFASの問題も取り上げられている。著者は著名な環境保護運動家であり、この本にも環境保護運動家の視点が盛り込まれているが、「環境弁護士」的な視点も強い(実際には、この本の大部分を弁護士が執筆していると思われる)。

出版社ページより紹介を引用
地球上の生き物にとって、綺麗な水は水素や酸素と同じくらい重要である。この惑星の水の現状にこだわってきた、映画『エリン・ブロコビッチ』の環境問題活動家、エリン・ブロコビッチが、水問題で今何が問われているかを語る。大規模工場・大農場や軍事基地が垂れ流す化学物質や発ガン性物質PFAS(有機フッ素化合物)などによる全米の水道水汚染——その事実を隠蔽するまやかしの科学を強く糾弾し、飲み水汚染によるガン・クラスターが報道されない現実を告発する。
市民を救う「スーパーマンは来ない!」 ひとりひとりが立ち上がり、水汚染をなくそうと行動を呼びかける!

日刊ゲンダイでの紹介
アメリカで1948年に制定された連邦水質汚染防止法は72年に大改正され、今では「きれいな水法」と呼ばれている。
 2004年から09年の間の違反件数は50万件を超えるが、そのほとんどは処罰されていない。
 カリフォルニア州のヒンクリーは豊かな農業地帯だったが、エネルギー企業による水の汚染のためゴーストタウンと化した。
 アメリカの国防総省は、ジェット燃料など軍事活動の廃棄物で土壌と地下水を汚染している。海兵隊のキャンプ・ルジャーン基地の水からは先天性障害や小児がんに関係する汚染物質が検出されている。
 自分たちで環境汚染をなくそうと立ち上がった市民の運動を、映画の主人公にもなった著者が描くルポルタージュ。



【おすすめ度○】三浦有史『脱「中国依存」は可能か 中国経済の虚実』中公選書, 2023年

題名から受ける印象とは異なり、この本は中国経済の概説書である。脱「中国依存」は可能か?という問いの答えは、この本を読んでみて考えてほしい。 内容:中国依存から出発する中国経済の見方 米中経済摩擦 貿易依存度の低下が示す内製化の進展 中国はなぜ米国との対立を厭わないのか 米中対立の行方 不動産バブル崩壊を防げるか 過剰債務体質を改善できるか 共同富裕は格差を是正するか 対外融資と債権国としての責任 付加価値貿易からみた日本の製造業

出版社ページより紹介を引用
中国は経済成長率が目標を下回るなど減速が著しいが、世界における重みは着実に増し、日本の最大の貿易相手国でもある。だが、深まる一方の「中国依存」に対する不安も急速に高まっている。脱「中国依存」は可能なのか。本書は各種の統計データに基づき、中国経済の正しい見方を提示する。あわせて「共同富裕」や不動産バブルなど習近平政権下の経済政策・経済問題を検討し、今後を展望するとともに、日本の取るべき指針を示す。



【おすすめ度☆】古田一雄・斉藤拓巳・長崎晋也『安全学入門 第2版』日科技連, 2023年

リスク管理論の立場から安全を考える教科書 内容:安全の基本概念 リスク表現と安全目標 ハザードの同定 確率論的安全評価 事故分析 化学物質の環境・生態動態解析 毒性評価 化学物質による環境リスク ヒューマンファクター リスクマネジメント リスクコミュニケーション

出版社ページより紹介を引用
安全を理解し、確保するための基礎知識と手法
 大学における工学系学部専門教育での講義の教科書として『安全学入門』(初版)を出版してから15年が経過した。この間、東日本大震災とそれに伴う福島原子力災害、熊本地震、新型コロナウイルスによるパンデミックなどを経験し、現代社会がさまざまな脅威にさらされており、安全がいかに重要であるかを人々がさらに認識するようになった。
 本書は、安全管理に携わる専門家や組織の決定に責任を有するリーダーが、広範囲にわたる安全問題の全体像を把握するための入門書である。第2版刊行にあたり、初版で用いた事例や文献を刷新した。本書は、大学での講義の教科書に使うことを前提としているが、企業や行政機関などの安全管理担当者や決定責任者の独習用にも役立つように配慮している。https://juse-p.co.jp/products/view/948

【おすすめ度☆】高橋幸資 編著『でん粉製品の知識』幸書房, 2016年

でん粉に関する総合的教科書 内容:世界のでん粉産業 でん粉の製造法と利用特性 でん粉の科学 でん粉の加工と改質 でん粉の用途 でん粉食品の特徴

版元ドットコムより紹介を引用
でん粉ほど,本来の素材としての高分子の特徴や自然の構造性を巧みに生かされるものは他にみられず,しかも持続的に多量生産可能で,多くの食品や,化成品,工業原料として人間生活に密着して利用されているものはない.本書は,高橋禮治氏が50 年に亘って培った豊かな経験に基づいて,このでん粉の製造,でん粉の構造や特性とその改質,でん粉製品等の膨大な知識をわかりやすく論述した優れたバイブル的書として1996 年刊行され,その後20 年間社会に広く貢献してきた.しかし,この間,でん粉の需給の変化,でん粉を取巻く新たな進歩,社会のニーズの変化とでん粉の利用の変化もあった.これらを補うために,その意を継いで2016 年原著の大部分を維持しつつ増改訂を行った.その増改訂も5 年経ち,統計情報を含めて新たな知見も増えたので,今回再改訂することとした.未だ不十分な点も多々あるが,ご批判を頂いてさらなる充実に努めたい.



【おすすめ度☆】滝田賢治『国際政治史講義』有信堂, 2022年

20世紀国際政治の概説書。21世紀の話は少ない。 内容: 産業革命と近代資本主義の生成 第1次世界大戦 戦間期の国際関係 第2次世界大戦 第2次世界大戦後の国際秩序構想 メリカ主導の対日占領政策 冷戦の発生から終結まで 冷戦後の世界


出版社ページより紹介を引用
◆二つの世界大戦と米ソ冷戦期を総括し、21世紀を展望する。◆
20 世紀は人類史における一大転換点であったと後世の歴史家は評価することになるであろう。「人は自分の生きている時代を誇大視する」傾向があるとはいえ、20 世紀に起こった数えきれない戦争・革命・ジェノサイドや全人類を一瞬にして絶滅させる核兵器が登場したことを想起するだけでも、この世紀が人類史において異常な世紀であったと言わざるをえない(まえがきより)。著者40年の研究・教育の成果を注ぎ込んだ国際政治史の教科書